絵画や図形を手段として、意志の伝達や事物の記録のための記号として用いた文字。picture-writingの訳語。文字体系の発展段階ではもっとも原初的な段階に属する。絵文字は、その発展過程に応じて3段階に細分されるが、文字によっては二つまたは三つの段階の混在体系である場合もある。第一は無文字段階、いわば「絵の段階」でpictographyにあたる。絵が言語を媒介とせずに、視覚的な記号で思想を伝達する段階であって、アメリカ・インディアンやアフリカなどで多くの例がある。たとえば、光輪のある円で太陽を、波状の線で水を表すごとくである。インカのキープ(結縄(けつじょう)文字)もこの範疇(はんちゅう)に入るが、文字というより一種の記憶補助手段である。これらは、厳密な意味では絵文字以前の先駆的段階とされている。第二は「表意的段階」であって、書き手が意図的に普遍的意味を絵画で伝えるもので、アメリカ・インディアンやエスキモーに多く、ポリネシア、西アフリカ、南アジアなどでも例がみいだされる。たとえば、前述の光輪のある円が「熱」や「暖かさ」を意味するような段階の文字で、より発達した段階にあり、狭義の絵文字はこの段階以上の文字をさし、現代でも交通標識などに用いられている。第三は高度に発達した絵文字で、慣習的に使われて定型化され、単純化された絵画が、単一の物体や語を表すシンボルとして使われる段階であって、絵文字として知られている大部分の文字はこの範疇に入る。
古代メソポタミアのシュメールでは、のちに表音文字へと発展して楔形(くさびがた)文字体系がつくられた。エジプト象形文字(ヒエログリフ)は、約3000年にわたって古代エジプトで使われていた。また、漢字は具象的な絵文字から発達してきたことが、甲骨文字や金石文などの文字によって明らかになってきた。西夏文字や契丹(きったん)文字は漢字を模してつくられ、前者は大部分が表音文字であり、先年解読されたが、後者は未解読とされている。中米のマヤ文字は完全に解読されてはいない。大部分は表意文字であるが、表音文字もあり、文字としては過渡的な段階にある。マヤ文字と並んで絵画性が強いアステカ文字は、地名・人名を表す文字が大部分で、表音文字もつくりだしたが、判じ絵的な使い方が多い。ほかにインダス、ヒッタイト、エトルリア文字、イースター島のロンゴロンゴなど独特の文字がある。
なお、和歌山県熊野の牛王(ごおう)神符や李(り)氏朝鮮の絵文字は、いわば装飾文字であって、ここでいう絵文字ではない。
[植田 覺]
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…メソポタミアの楔形(くさびがた)文字の原形も象形による文字であり,おそらくこのシュメール文字と関係のある原始エラム文字,またインダス文化の出土品にみられる原始インド文字(インド系文字),あるいは目下解読されつつあるクレタ文字,その影響と思われるヒッタイト文字など古代の原始的文字はみな象形文字である。これら古代文字の原始形態が象形にあることは,これらがいずれもいわゆる絵文字pictographから発生したことを物語る。絵文字は図形あるいはその結合によってある観念を示すもので,北アメリカのインディアンの間などにみられる絵による伝達などがそれである。…
…表情や身ぶり,旗などの色や動き,あるいは絵画的表現,縄などの結び目,木などの刻み目などによるさまざまな方法がある(なかには自己の記憶のための場合もある)。それらの中には〈絵文字〉とか〈結縄(けつじよう)文字〉(結縄)とか〈貝殻文字〉とかいうように何々文字と通称されているものもあるし,〈身ぶり語〉とか〈花言葉〉とかいうように,言語の一種であるかのような呼名の与えられているものもある。固有の意味における〈文字〉がこれらのさまざまな視覚にうったえる伝達方法と区別されるのは,何よりもまず,文字による表記が特定の言語の表現と緊密に結びついている点にある。…
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