絵文字が発展して象形文字になり,ついで1字形が言葉の一つの概念あるいは一つの意味単位に対応する段階になって,表意文字は成立した。漢字は代表的な表意文字であるが,多くの場合1字形が1単語を表記するため,表語文字logogramとも呼ばれる。表意文字は,言葉の意味単位を表記する点で,音声面を書き表す表音文字に対立する。一方,象形文字と呼ぶのは,字形の作り方から分類した名称で,必ずしも象形文字すなわち表意文字とは限らない。象形字形が表音文字であることもあり,また表意文字の字形には上,下などの抽象概念を示す指事字形や象形字を二つ以上組み合わせた会意字,たとえば木が二つで林,三つで森などの合成字形も含まれる。また表意文字では,一つの字形は言葉の一つの分節的な意味単位に相応して,絵文字のようにいくつもの概念が漠然とまとめて表示されることはない。したがって,一つの表意字形には特定の言語の体系によって定められた一定の意味が与えられており,その字形を知る人は,いつも同じ意味を了解する。西の世界ではヒッタイト象形文字やシュメール象形文字などの古代文字がそれであり,東の世界では漢字のほかに契丹大字(契丹文字)や西夏文字が表意文字である。
表意文字が表記する特定言語の単語がもつ音声面を利用して,固有名詞などの表記を中心に表音的に運用された結果,多くの表意文字はやがて表音文字に変化した。また表音文字の中に,表意文字を挿入する表記法もある。日本で採用される漢字かな交じり文とか契丹小字の文章の中に表意字形が混入されるのがそれである。ハングルの中の漢字も同様である。そのほか中世ペルシア語やソグド語に見られる,表音文字で書いたアラム語の借用語を表意文字として訓読する例は,表意字形をもたない表意字としておもしろい。なお,たとえばオリンピックの五輪のしるしのような世界共通のマークなどは一般的な表意符号(記号)ではあるが,特定の言語の意味単位を代表する表意文字ではない。
→漢字 →文字
執筆者:西田 龍雄
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各字の示す単位が語形の段階にとどまり、それよりさらに細かく分割して示すことのない文字体系。いわゆる象形文字hieroglyph、すなわちシュメール文字やエジプト文字に加えて漢字もそれにあたるとされる。ところが、漢字は一面からみれば、音節文字である。漢語の基本語彙(ごい)はすべて一音節語で、したがって漢字の各字は音としては1音節を表示する(ゲルブI. J. Gelbのいう表音文字である)。しかし、古代文字の解読者たちは、漢字やシュメール文字やエジプト文字の字源の表意的な特徴をとらえて、とくに表意文字ideographとよんだのである。それに伴って表音的な特徴をも認め、表音文字phonographとした。それらは、古代文字の体系のなかで字源のあり方を対比させたものである。後漢(ごかん)の許慎が『説文(せつもん)解字』に示した字源説、六書(りくしょ)のうち、象形・指示を「文(すがた)」とし、形声・会意を「字(とりあわせ)」とする。さらに、転注は「文」や会意とともに表意に、仮借(かしゃ)は形声とともに表音にあたり、表音が圧倒的に多い。しかも、表意文字も語を表す限りにおいて表音機能を併せ維持している。しいて純粋な表意文字を求めるなら、文字以前の絵文字pictographの段階に立ち戻らなければなるまい。文字ともなれば、すでに、(a)一定の語形との結び付きと、(b)表音的な当て字(すなわち仮借)とに踏み込んでいるからである。
[日下部文夫]
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表語文字ともいう。漢字,ヒエログリフ,楔形文字,古代アメリカ文字のように,絵文字から発生し語の意味を表現する文字。表意文字のみで一つの言語を表記しつくすのは困難なので,表意文字の一部は表音的に運用されるようになり,やがて表意文字の字形を母胎とする表音文字の体系(アルファベット,仮名など)が生まれた。ただしこの最後の過程は,表意文字の発生地ではなく周辺部において起こった。
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…過去3000年にわたって同じ文字が断絶することなく用いられてきたことは,中国文化の特異な一面を物語っている。
【漢字の特質】
通説によれば漢字は他の古代文字と同じく表意文字ideographの段階にあるといわれる。表意文字とは1字がある音を表す表音文字に対して,1字がある観念ideaを表す文字で,たとえば漢字の〈日〉は太陽の観念を表すようなものである。…
…文字が(音声)言語を表記するものであるといわれるのはこのような意味においてである。したがって,文字の分類として常識的に行われている〈表意文字〉と〈表音文字〉との別は,後にも述べるように,〈文字〉の性質を正しく表すものといえない。表意的とか表音的とかいう性質は体系としての〈文字〉についてみられるのではなくて,それぞれの体系を構成している個々の要素である〈字〉についていわれることなのである。…
※「表意文字」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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