改訂新版 世界大百科事典 「網生簀養殖」の意味・わかりやすい解説
網生簀養殖 (あみいけすようしょく)
net-cage culture
水面を網で区切って行う養殖方法の一つで,ハマチやタイなど海産魚類の養殖の多くが現在この方法で行われており,小割養殖とも呼ばれている。海ばかりでなく,諏訪湖や霞ヶ浦のコイの養殖のように湖沼でも行われており,また養魚池の中で稚魚を育てる時などにも網いけすが利用される。
網いけすにはふつう合成繊維の網が使われる。フグやイシダイなど歯の強いものには,金網が使われることもある。竹や丸太の枠に網を取りつけ,直接あるいはドラム缶や樽などの浮きで水面に浮かべるのが従来の方法であったが,最近は投餌や取揚げなどの作業の足場を備えた鋼鉄製の枠に発泡スチロール製の浮きを使う方式が普及してきた。枠の形は正方形が多いが,長方形,六角形,八角形などのものもあり,また,枠を田の字に組む場合もある。大きさは対象魚種や養殖規模によってさまざまであり,タイやハマチの養殖では辺の長さが5~10mのものが多い。これらは錨や杭につながれ所定の位置に浮かべられる。このほか,霞ヶ浦のコイ養殖にみられるように浮きを使わずに杭に直接網を取りつける方法や,カキや真珠のいかだの間を利用する簡便な方法も行われている。網の上縁は魚が飛び出さないように,水面より高くすることが必要である。また,鳥害などを防ぐために天井網を張る場合もある。さらに風浪の強い所などでは天井網を張った網いけすを水中に沈める方式の養殖も行われており,この場合には天井網に取りつけた煙突状の網を通していけす内の魚に餌が与えられる。
網いけす内は一般に潮流や内部の魚の遊泳運動によってよく水が交換され,このため築堤式養殖や溜池養殖に比べて単位面積当りの生産量が多い。その他,適地あるいは開発可能な場所が多いこと,施設費が安いこと,投餌や水揚げなどの作業や管理が容易なこと,風波などを避けるための移動が可能なことなどの利点がある。しかし,網の縫合せ部の不完全や網目の破損によって魚がすべて逃げてしまったり,付着生物や漂着物が網目をふさぎ,水の交換が悪くなって酸素不足のために魚が死亡するなどの事故が起こりやすい。付着生物の量が多くなった場合や,魚の成長に合わせて網目を大きくするために,一定期間ごとに網を替えることも必要である。また,共通の水面に多数の施設が置かれるため,伝染病が発生した場合や赤潮などの悪水が流入した場合の被害が大きいことや,投餌や管理のために舟を使わなければならないものが多いなどの欠点もある。
執筆者:若林 久嗣
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報