長野県のほぼ中央、
湖岸線は出入が極めて少なく、
古くから洲輪之海・州羽海・須波海・諏方ノ海・諏訪の海・諏方湖・
諏訪湖では、結氷の後、諏訪大社上社側から同下社に向かって、一大音響とともに氷に亀裂が生ずる現象があり、これを
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
長野県の中央にある湖。諏訪盆地中央部を占め,諏訪市,岡谷市,下諏訪町にまたがる。糸魚川-静岡構造線に沿った断層湖。北東岸および南西岸には断層が通るため山地が迫り,北岸および南岸に平たん地が広がる。面積14.1km2,湖面の標高759m,周囲17km,最大水深7.6m。八ヶ岳西麓,鉢伏山,霧ヶ峰を流域とする上川,宮川,砥(と)川などの河川が流入し,集水域の面積は531km2と湖水面積の38倍にもおよぶ。かつては南北に長い紡錘形をしていたが,集水域の多くが火山性山地で浸食が激しいため,流入する河川による埋積がすすみ,現在は東西にやや長い長方形をなす。湖底堆積物は厚さ400m以上におよぶ。内陸高地にあり,冬季は結氷する。昼夜の温度差が大きく,厳冬季には厚い氷が収縮してひび割れが生じ,この部分が再結氷したのち,温度の上昇に伴って氷が膨張し大音響をたてて割れ,盛り上がる現象がみられる。これは諏訪大社上社の男神が下社の女神のもとへ行く神幸の跡と言い伝えられ,〈御神渡(おみわたり)〉と呼ばれ,その年の農作物の豊凶が占われる。御神渡の記録は室町時代から残されており,日本の気候変動を知る貴重な資料になっている。湖の東岸近くの湖底には温泉湧出地があり,冬季にもここだけは結氷しないことから釜穴(かまあな)(七ッ釜)とよばれている。
諏訪湖は,日本の代表的な富栄養湖で,湖面の面積あたりの漁獲高が多いことで知られ,ワカサギをはじめ,コイ,フナ,ウグイ,タナゴ,モロ,オイカワなどがとれる。しかし,周囲の諏訪盆地は県内では早くから工場が集積した所で,人口密度が高く,湖岸には上諏訪,下諏訪などの温泉もある。このため,第2次大戦後,とくに1960年代以降,工場,家庭,旅館からの汚水により窒素やリンが増加して富栄養化が進み,アオコが大量に発生した。この結果,夏季には湖の悪臭がひどくなり,酸素不足などによって魚が死亡するなどの公害が発生した。70年代中ごろから公共下水道の終末処理場の設置による湖水浄化がすすめられている。
湖の南東岸には上川,宮川などの三角州が発達し,諏訪市文出(ふみで)集落を中心にして用水路網がめぐらされ,水郷景観がみられる。三角州では深さ140~200mの湖成層にメタンを主とする天然ガスが包含されており,採掘されたガスは工業用や家庭用に利用されている。湖の西端から天竜川が流出するが,洪水時には水位が高まり,沿岸地域にしばしば水害をもたらしてきた。1936年に排水口にはんらん防止のため釜口水門が設けられ,水害は減少している。夏には遊覧船が運航され,冬季はスケート(70年前後を境に姿を消す),ワカサギの穴釣りなどでにぎわう。
執筆者:市川 健夫
諏訪湖は本州中央部を貫く幹線路にあるため古くから湖周に多くの人々が集住し,諏訪信仰とも関連して漁業の伝統をもつ。すでに室町初期にみられた諏訪明神の御贄(みにえ)用のコイを弓で射る〈鯉はせ漁〉,鵜縄のない鵜飼い,冬季の結氷期に行われる氷曳(48人の漁夫による氷下曳網漁),ごろ引や,屋塚(やつか)(あらかじめ人頭大の石を沈めておいて魚の避難所をつくり,氷に穴をあけて簀で囲み,石をとり出して魚をとる)などの氷上漁などは著名であり,特に氷曳の歴史は南北朝期までさかのぼるといわれる。湖のおもな生息魚介はコイ,フナ,ナマズ,ウナギ,アカウオ(ウグイの異名),シジミ,タニシなどで,江戸時代には4挺引網が行われた。しかし江戸期の漁業は藩の統制が強く,漁業権も未結氷期(明海(あきうみ))では小和田,小坂,花岡のわずか3ヵ村,氷上漁では有賀,岡谷を加えた5ヵ村に専有されていた。なお,八郎潟の氷曳は1794年(寛政6)秋田の魚商人高桑与四郎によって,諏訪湖の漁法が伝えられたものであり,一方,現在諏訪湖で盛んなワカサギ漁は,大正期に霞ヶ浦から移殖されたものである。
執筆者:田島 佳也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
長野県中央部、諏訪盆地にある湖。糸魚川(いといがわ)市から駿河(するが)湾に至るフォッサマグナの陥没地にできた構造湖で、面積12.9平方キロメートル、周囲17キロメートル、湖面標高759メートル、最深部7.6メートル。八ヶ岳(やつがたけ)火山から流下する宮川や上川(かみがわ)の土砂の堆積(たいせき)が激しく、地質時代からみるとかなり縮小している。県ではいちばん大きいが、日本の内陸湖としては水深の小さい老齢湖である。湖水の汚染が進み、透明度はきわめて低かったが、長野県は水質保全に取り組み、近年は成果を得ている。湖に流入する河川は多く、湖岸南西部から流出する天竜川の釜口水門(かまぐちすいもん)によって湖面の高さや流出量を調節している。明治、大正期には湖を用水源として岡谷(おかや)市、諏訪市などに製糸工業が発達したが、現在は第二次世界大戦中に疎開したカメラ、時計などの工業が発展し、湖岸は日本有数の精密工業地をなしている。漁業はコイ、フナなどの漁獲やワカサギの養殖が行われ、冬期、氷に穴をあけて釣るワカサギ釣りは湖の風物詩である。湖中には温泉がわき、北岸に上諏訪温泉(かみすわおんせん)街を形成する。1月下旬の厳寒期に湖が全面結氷すると、「御神渡り(おみわたり)」とよばれる現象が生じる。下(しも)諏訪から南南西方向に割れ目ができ、割れ目に沿って氷堤ができる。昼夜の温度差が大きいために生じるものであるが、地元では、諏訪大社の上社の男神が下社の女神のもとに通う恋路であると言い伝えている。
なお、「諏訪の海」として古歌に多く詠まれる歌枕(うたまくら)でもある。
[小林寛義]
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