緊急防護措置区域(読み)きんきゅうぼうごそちくいき(英語表記)urgent protective action planning zone

共同通信ニュース用語解説 「緊急防護措置区域」の解説

緊急防護措置区域(UPZ)

屋内退避やヨウ素剤準備など、原子力防災対策を重点的に充実すべき範囲。以前は原発から半径10キロ圏を重点区域(EPZ)としていたが、東京電力福島第1原発事故放射性物質影響が広範囲に及んだことを受けて、原子力規制委員会が2012年10月に原子力災害対策指針策定。範囲を30キロ圏に拡大し、UPZと定義した。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「緊急防護措置区域」の意味・わかりやすい解説

緊急防護措置区域
きんきゅうぼうごそちくいき
urgent protective action planning zone

国際原子力機関IAEA)が、原子力発電所等の事故時に被曝(ひばく)回避のため住民避難などの対策をとるよう促している区域。英語の頭文字をとってUPZと略称する。日本では「緊急時防護措置準備区域」ともいう。原子力発電所から半径5~30キロメートルの範囲が目安となる。過去の事故の経験やその研究を踏まえ、2002年に国際基準として提示された。なお原発から半径5キロメートル圏内を予防防護措置区域(PAZ:precautionary action zone)とよび、住民の即時避難など、より厳しい対策を求めている。

 日本政府は従来、原子力災害に備えた防災対策の重点区域を、原発から半径約8~10キロメートルの防災対策重点地域(EPZ:emergency planning zone)としてきた。しかし2011年(平成23)の東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、2012年10月に決定した原子力災害対策指針で、国際基準のUPZを採用。区域を拡大したことで、対象自治体は従来の15道府県45市町村から、21道府県135市町村に広がり、区域内の住民人口も約7倍の480万人に増えた。原発ごとに区域内自治体は国と地域原子力防災協議会を設け、原子力防災計画や住民の広域避難計画の策定を義務づけられた。区域内住民は事故の深刻度に応じて、まず屋内退避し、放射線量の推移をみながら、空間放射線量が毎時20マイクロシーベルトに達した場合には1週間以内に避難する。空間放射線量が毎時500マイクロシーベルトに達した場合には数時間で区域外へ避難する必要がある。避難住民は放射性物質の付着を調べるスクリーニングを受ける。さらに、原子力規制委員会の指示に基づき、甲状腺(こうじょうせん)がんの発生を抑える安定ヨウ素剤の予防的服用も求められる。区域内の病院や介護保険施設などにいて自力避難が困難な避難行動要支援者に対しては、要支援者名簿の作成、避難場所や避難経路、移送に必要な資機材の確保などの避難計画を作成することになっている。なお、UPZを機械的に設定すると地域コミュニティーが分断されるおそれがあるため、各自治体の行政区域の形や範囲に応じて柔軟に範囲を設定できるようになっている。このため、九州電力玄海(げんかい)原発では最長半径35キロメートルまでを、また、中部電力浜岡(はまおか)原発では半径31キロメートル圏内をUPZの範囲としている。また原発の再稼働同意について、原発を立地する自治体だけでなく、UPZ圏内自治体の同意をも必要とすべきとの主張がある。

 なお、IAEAは、原発から半径5キロメートル圏内を、放射性物質が放出される前の事故初期段階で住民を即時避難させるPAZに設定し、日本政府も国際基準のPAZを採用している。放射線による重大な健康被害を回避するため、平生から医師による説明・問診会を行い、安定ヨウ素剤を事前配布するなどUPZよりも厳しい対策を求めている。

[矢野 武 2021年6月21日]

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