国際原子力機関(読み)コクサイゲンシリョクキカン(その他表記)International Atomic Energy Agency

デジタル大辞泉 「国際原子力機関」の意味・読み・例文・類語

こくさい‐げんしりょくきかん〔‐ゲンシリヨクキクワン〕【国際原子力機関】

国際連合の機関の一。原子力の平和利用の促進と軍事利用の防止を目的とする国際機関で、核の番人とよばれる。1957年設立、2005年にノーベル平和賞を受賞。本部はウィーンIAEA(International Atomic Energy Agency)。

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共同通信ニュース用語解説 「国際原子力機関」の解説

国際原子力機関(IAEA)

核兵器の拡散防止と原子力の平和利用のため、1957年に設立された国連の関連機関。「核の番人」とも呼ばれる。本部ウィーン。イラン核合意の検証のほか、原子力の安全対策、途上国への技術協力も行う。2011年3月の東日本大震災による東京電力福島第1原発事故の発生当初から対応に当たってきた。05年にノーベル平和賞を受賞。故・天野之弥あまの・ゆきや氏も事務局長を務めた。グロッシ氏は19年12月に天野氏の後任に就任した。(共同)

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精選版 日本国語大辞典 「国際原子力機関」の意味・読み・例文・類語

こくさい‐げんしりょくきかん‥ゲンシリョクキクヮン【国際原子力機関】

  1. ( [英語] International Atomic Energy Agency の訳語 ) 原子力の平和利用を促進するための国際連合の専門機関。一九五七年発足。本部ウィーン。略称IAEA。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「国際原子力機関」の意味・わかりやすい解説

国際原子力機関
こくさいげんしりょくきかん
International Atomic Energy Agency

略称IAEA。原子力の軍事的利用を防止し、平和的利用を促進するために、独自の憲章(IAEA憲章)に基づいて1957年に設立された国際的協力機構。1953年の国連総会で、当時のアメリカ大統領アイゼンハワーが演説した「平和のための原子力Atoms for Peace」の提案をもとに発足した。ウィーンに本部を置き、2009年12月時点での加盟国数は151か国。世界規模で活動する専門的国際機構であるが、安全保障に深い関係がある分野を扱うことから、国連では経済社会理事会よりは安全保障理事会との関係が強い。そのために国連の専門機関とはなっていない。主要機関として総会、理事会および事務局がある。日本は設立当初より加盟しており、指定理事国となっている。

[横田洋三]

おもな業務

原子力の平和的利用のために、研究・開発・実用化の奨励、そのための役務・物質・施設の確保に対する便宜の供与、情報交換および専門家の訓練の奨励、保障措置の適用、安全基準の設定などの活動を行う。IAEAの活動のなかでもとりわけ特色があり、かつ実際上の重要性をもつのは、原子力発電所などの平和的利用施設の使用によって生ずる物質が軍事目的に転用されないようにするための保障措置safeguardsである。具体的には以下の六つの方法がとられている。

(1)IAEAと加盟国との間の2当事者間の事業実施協定に基づいて行う2当事者間保障措置。

(2)加盟国からの要求によってIAEAが行う一方的保障措置。

(3)核燃料のような原子力資材を提供するアメリカとそれらを受け取る国との間の、原子力協定に基づいてIAEAが行う3当事者間保障措置。

(4)1967年のラテンアメリカ核兵器禁止条約トラテロルコ条約)などの、地域的多数国間条約の締約国とIAEAとの間の協定に基づいて行われる保障措置。

(5)1968年の核不拡散条約(NPT)に基づいてその締約国とIAEAとの間に協定を結んで行われる保障措置。

(6)NPT加盟の核兵器保有国(アメリカ、イギリスフランス、ロシア、中国)が自発的にIAEAと協定を結び、それに基づいて行われる保障措置。

[横田洋三]

1980年代以降の活動

1986年4月、ソ連邦を構成していたウクライナ共和国で発生したチェルノブイリ原子力発電所事故については、原因と影響を究明するための専門家会議を開催。同年9月の総会で原子力事故の早期通報システムの確立が協議され、「早期通報」「相互援助」の2条約が採択された。

 IAEAは1991年以降、国連安保理決議に基づきイラク核査察を繰り返し実施した。1998年12月アメリカ、イギリス両軍によるイラク空爆によって中断していた査察は、2002年11月IAEAと国連査察委員会によって再開された。しかし2003年3月アメリカ、イギリス両軍がイラクの武装解除とフセイン政権打倒を目的にイラクに武力行使し(イラク戦争)、同年4月フセイン政権は崩壊している。

 一方、1994年6月にIAEAを脱退した北朝鮮の核問題については、同年10月の米朝高官協議で北朝鮮の核開発凍結とNPTへの完全復帰、軽水炉転換への支援などが決まり、具体的支援のため朝鮮半島エネルギー開発機構KEDO(ケドー))が1995年3月に発足した。KEDOは軽水炉建設が完成するまでの間、北朝鮮に重油の提供をするとしたが、2002年10月北朝鮮が核開発計画を認めたことなどから、11月核開発を放棄しない場合は重油の提供を停止すると発表、12月提供は停止された。その後北朝鮮は核関連施設の凍結措置を解除すると宣言、駐在していたIAEA査察官を国外退去させた。2003年より核問題を含めた北朝鮮をめぐる諸問題の解決に向け、日本、アメリカ、韓国、中国、ロシア、北朝鮮の6か国で協議が進められ(六者協議。六か国協議、六者会合ともいう)、2007年2月の六者協議で北朝鮮はIAEAの査察受け入れを表明、同年6月に事務次長ハイノネンを団長とするIAEA査察団が訪朝して核施設の視察を行った。翌7月には約4年半ぶりにIAEA査察官が訪朝、六者協議で対象となった全5施設の稼動停止を確認した。

 1998年には、同年5月に核実験を行ったインドとパキスタン両国に対し、自制を求める声明を発表。1999年に起きた茨城県東海村の臨界事故に関しては、現地調査の専門家チームを派遣した。

 こうした活動が、「核エネルギーの軍事的利用を防ぎ、平和利用を可能なかぎり確実にしてきた」と評価され、2005年、IAEAとその事務局長であるエルバラダイにノーベル平和賞が授与された。

[横田洋三]

『核物質管理センター企画部編、科学技術庁原子力安全局保障措置課監修『核拡散防止用語集――IAEA保障措置関係用語の解説』(1981・核物質管理センター)』『今井隆吉著『IAEA査察と核拡散』(1994・日刊工業新聞社)』

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百科事典マイペディア 「国際原子力機関」の意味・わかりやすい解説

国際原子力機関【こくさいげんしりょくきかん】

正称はInternational Atomic Energy Agency,略称IAEA。アイゼンハワー米大統領の提唱で,国連総会の承認を得て1957年設置された国際機関。原子力平和利用の促進を目的とし,そのための研究・開発および技術協力,安全保障措置の決定・実施を目的とする。保障措置として,加盟国の原子力開発の軍事利用を防ぐ目的で特別査察を行うため,既存の核兵器保有国の優位を保つ側面をもつ。1992年以降,IAEAによる朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)への核査察の過程で核兵器開発の疑惑が生じたが,北朝鮮はこれに反発して核拡散防止条約を脱退するにいたった。事務局はウィーン。加盟国144(2011)。日本は創設時より加盟。2005年,同機関と同機関事務局長モハメド・エルパラダイ(1997年就任)がノーベル平和賞を受賞。2009年,エルパラダイの後任として,日本の天野之弥が選出された。1990年,OECD原子力機関と共同でINES国際原子力事象評価尺度を策定。原子力開発から原発などの原子力事故・故障の国際的な監視と情報収集,情報公開,評価を行なうことから,〈核の番人〉と言われる。原発史上最悪の事故の一つとなった2011年3月の福島第一原発の大事故でその役割が国際的な注目を集めた。原子力→原子力管理
→関連項目イラン柏崎刈羽原発原子力発電原発事故国際連合チェルノブイリ原発事故朝鮮半島エネルギー開発機構朝鮮半島非核化宣言日米原子力協定バーゼル条約

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改訂新版 世界大百科事典 「国際原子力機関」の意味・わかりやすい解説

国際原子力機関 (こくさいげんしりょくきかん)
International Atomic Energy Agency

略称IAEA。アイゼンハワー米大統領の提唱などにより,1957年7月ウィーンに本部を置いて発足した国際機関。その主要な設立目的は,全世界における平和,保健および繁栄に対する原子力の貢献を促進し増大するよう努力すること,ならびに,機関自身が与える援助,機関の要請にこたえて与えられる援助,もしくは機関の管理下にある援助がいかなる軍事的目的をも助長するような方法では利用されないよう,その能力のかぎり保障することである。国際連合,世界銀行,世界保健機関等と同じく政府加盟の機関であり,2005年12月現在加盟国は139ヵ国である。日本は設立の当初から加盟している。05年IAEAとエルバラダイ事務局長にノーベル平和賞が授与された。

IAEAは,総会,理事会および事務局をもって構成される。総会は,全加盟国の代表者で構成され,通常毎年1回開催され,機関の政策と業務計画に関する一般討論,予算および年次報告の承認,加盟申請の承認等を行う。理事会は,現在35ヵ国で構成され,通常年に5回開かれる。IAEAの執行機関であり,加盟申請,および業務計画を含む主要な問題のすべてを検討する。事務局は,約900人の専門家と約2200人の一般事務スタッフを擁し,事務総長の下に六つの局(管理局,研究およびアイソトープ局,技術援助局,核エネルギー局,核安全局,保障措置局)が置かれている。事務総長は,科学者たちからなる科学諮問委員会および保障措置技術諮問委員会から助言を受けることになっている。

IAEAはきわめて多岐にわたった分野での活動を行っているが,特に重要なのは,保障措置業務および技術援助業務である。保障措置業務とは,同機関加盟国の原子力開発が平和利用のみに用いられるよう保障するもので,核物質等の軍事利用防止のための監視システムが,同機関の国際査察官の各国派遣等によって実施されている。技術援助業務とは,開発途上国に対する原子力関係技術協力,援助業務である。特に,開発途上国の経済社会開発に必要とされる原子力関係の技術等について,その国の開発段階にあわせた援助,協力を行っている。このほかの業務として,各種の研究調査活動,国際的な原子力技術に関する基準づくり,国際シンポジウム,パネル・ディスカッション等の開催を行っている。同機関は付属の研究所ももっており,モナコの国際海洋環境研究所International Marine Environment Laboratory,ウィーンのサイベルスドルフ研究所が代表的なものである。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「国際原子力機関」の意味・わかりやすい解説

国際原子力機関
こくさいげんしりょくきかん
International Atomic Energy Agency; IAEA

原子力の平和利用の促進,軍事的利用への転用防止を目的とする国際機構。本部はオーストリアのウィーン。国際連合の専門機関ではないが,国連と密接な連携関係をもつ関連機関。1953年アメリカ合衆国のドワイト・D.アイゼンハワー大統領の国連総会における "Atoms for Peace"の演説がきっかけとなって,1957年7月29日 IAEA憲章が発効し,機関が発足した。原子力の平和利用のために与えられている具体的権限としては,(1) 原子力の研究,開発,実用化を奨励,援助し,加盟国間の役務の実施,物資,設備,施設などの供給について仲介者となり,また独自の活動,役務も行なう,(2) 開発途上地域における必要性を考慮しつつ物資,役務,設備,施設などを提供する,(3) 科学上,技術上の情報交換を促進する,(4) 科学者,専門家の交換,訓練を奨励する,(5) 健康上,安全上の基準を定めて適用する,(6) 軍事転用防止のために保障措置を設定・実施する,などがある。組織は総会,理事会,事務局からなり,総会は全加盟国の代表者で構成され,通常会期は毎年 1回本部で開催されるが,要請があれば特別会期も招集できる。総会の任務は理事国の選出,新加盟国の承認,予算の承認など広範にわたる。理事会は指定理事国 13ヵ国と各地域の総会選出理事国 22ヵ国の計 35ヵ国からなり,総会に対する責任を負うことを条件に IAEAのあらゆる任務を遂行する権限をもち,実質的な決定をすべて行なう。事務局は任期 4年の事務局長を筆頭に 6人の事務次長がおり,それぞれ事務管理局,原子力科学・応用局,技術協力局,保障措置局,原子力エネルギー局,原子力安全局の長として事務局長を補佐する。2005年モハメド・エルバラダイ事務局長とともにノーベル平和賞を受賞。2012年6月現在加盟国は 154。

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知恵蔵 「国際原子力機関」の解説

国際原子力機関

原子力の平和利用促進と、軍事に転用されないための保障措置を実施する国際機関。国連機関ではないが、強い協力関係にある。1953年の国連総会で、アイゼンハワー米大統領が平和利用のために原子力技術を開放する「アトムズ・フォー・ピース」演説をし、設立を提唱。発足したのは57年。本部はオーストリアのウィーン。総会と理事会、事務局からなる。旧ソ連のチェルノブイリ原発事故報告書の検討と放射能汚染地域の住民健康調査、湾岸戦争後のイラクの核開発査察、北朝鮮の核開発疑惑での査察など、世界に大きな影響を与える活動をしている。2005年には、それまでの査察などによる軍事転用防止から一歩踏み込んで、民生用のウラン濃縮とプルトニウム抽出の国際管理を提案した。また、05年度のノーベル平和賞をエルバラダイ事務局長とともに受賞した。IAEAが行ってきた核査察活動が評価されたためだが、核拡散の動きが強まる中でIAEAの今後の役目の重要性もノーベル賞委員会は授賞理由で強調した。職員数は約2300人。07年9月現在、加盟国は144カ国。

(渥美好司 朝日新聞記者 / 2008年)

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「国際原子力機関」の解説

国際原子力機関(IAEA)(こくさいげんしりょくきかん)
International Atomic Energy Agency

原子力の平和利用の促進,指導と軍事転用防止を目的とする国際機関。1957年発足。平和利用促進のためには技術援助,安全基準の策定などを行う。軍事転用防止では,原子力施設の設計審査,核燃料の数量確認,立ち入り査察といった保障措置を実施,違反国には是正勧告,制裁措置も行う。核拡散防止条約(NPT)で非核兵器国には,IAEAの保障措置の受諾が義務づけられている。IAEAは国際連合の関連機関として位置づけられており,独自の憲章を持つ。2006年9月現在,141カ国が加盟。

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旺文社世界史事典 三訂版 「国際原子力機関」の解説

国際原子力機関
こくさいげんしりょくきかん
International Atomic Energy Agency

原子力の平和利用に関する国際管理機関で,国際連合の専門機関の1つ。略称IAEA
アメリカのアイゼンハウアー大統領の提案をもとに,1957年7月ウィーンで創立。総会・理事会・事務局からなり,本部はウィーン。原子力の平和利用に関する情報交換,専門家の訓練その他の活動を行う。理事会は34か国で構成されるが,アメリカ・イギリス・フランス・カナダが運営の中心となっている。

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世界大百科事典(旧版)内の国際原子力機関の言及

【科学技術政策】より


[国際機関]
 全地球的視野で解決を要する天然資源,食糧,環境,衛生,エネルギーなどの諸問題についての活動が展開され,また発展途上国の国民経済の発展を図るための科学技術力の強化を図る援助活動が続けられている。国連における〈開発のための科学技術政府間委員会〉〈新・再生可能エネルギー政府間委員会〉などは総合的なものであるが,発展途上国援助につき国連開発計画(UNDP),国連貿易開発会議(UNCTAD),国連工業開発機構(UNIDO)などの機構において技術協力が活発化しており,また宇宙空間平和利用委員会,国連環境計画(UNEP)などの活動のほか,国際原子力機関(IAEA),国連食糧農業機関(FAO),世界保健機関(WHO),国連教育科学文化機関(UNESCO)等の専門機関が,それぞれ技術援助や情報活動を行っている。また経済協力開発機構(OECD)においては,科学技術政策委員会(CSTP)などいくつかの委員会で交流が行われている。…

【原子力管理】より

…結局,米ソのこの対立は国連の枠内で解決することができず,同委員会は1949年7月,大国間に協定の基礎ができるまで活動停止を決めた。53年12月末,アメリカのアイゼンハワー大統領は国連総会で原子力平和利用のための国際原子力機関の設置を提案した。その背景には,アメリカの原子力産業がすでに相当な規模に達し,原子力発電の市場を海外に求める必要に迫られていた,などの事情もあったが,当時,米ソ間の核管理交渉の行詰りや,冷戦,大量報復理論の展開に各国とも困惑していたところから,大いに歓迎された。…

※「国際原子力機関」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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