安定ヨウ素剤(読み)あんていようそざい

共同通信ニュース用語解説 「安定ヨウ素剤」の解説

安定ヨウ素剤

放射性ヨウ素による内部被ばくを防ぐ医薬品錠剤の場合、大人は1回2錠、3歳以上13歳未満は1錠を服用。3歳未満向けのゼリータイプもある。甲状腺以外の臓器の内部被ばくや、他の放射性物質には効果がない。原子力規制委員会マニュアルなどが昨年7月に改正され、事前配布の対象は原則40歳未満で、服用は被ばくの影響が懸念される子どもや妊婦らを優先すべきだとされた。副作用の可能性があり、従来医師立ち会いの説明会で受け取る必要があったが、改正後は薬局で受け取ることもできるようになった。東京電力福島第1原発事故では、政府内の情報共有が不十分で服用指示が現場に伝わらなかった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「安定ヨウ素剤」の意味・わかりやすい解説

安定ヨウ素剤
あんていようそざい

甲状腺(せん)への放射性ヨウ素(ヨウ素131)の取込みによる被曝(ひばく)を防ぐことを目的に用いられる薬剤。甲状腺被曝により、とくに乳幼児や小児において、数年~数十年後に甲状腺がんを発症するリスクが高まることが知られている。

 ヨウ素(ヨウ素127)は海中等に存在し、海藻や魚貝類に多く含まれる。ヒトでは甲状腺ホルモンを生成するために必要な元素であるため、海藻等を摂取した場合は、血液を通じて甲状腺に取り込まれる。日本では海藻等を摂取する習慣があるため、一般に、摂取不足はないと考えられている。

 原子力発電所事故等により放射性ヨウ素が放出された場合、物理的に壊れることで半分の量になる物理的半減期は8日と短いが、約10~30%は甲状腺に取り込まれると推定されている。1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故の際には、飛散した放射性ヨウ素を含んだ野菜や牛乳の摂取により事故後4~5年が経過したころから小児の甲状腺がんが多発し、このことから、放射性ヨウ素の取込みによる被曝と甲状腺がんの因果関係が注目されるようになった。

 放射性ヨウ素が甲状腺に取り込まれる前にヨウ素127を摂取すること(このことを予防服用という)で、甲状腺への放射性ヨウ素の取込みによる被曝を防ぐものが安定ヨウ素剤である。日本では、原子力災害対策指針により原子力発電所から半径5キロメートル以内の住民には、安定ヨウ素剤が配布されることになっている。また、5~30キロメートルの区域においては、地方公共団体は、避難や屋内退避の際に迅速に安定ヨウ素剤を配布できる体制を整備する必要がある。事故等が発生した場合には、地方公共団体等からの指示に基づき、3歳未満の乳幼児はゼリー剤、3歳以上の者は丸剤の形で、原則1回服用する。

 安定ヨウ素剤にも副作用はあり、ヨウ素過敏症が代表的である。よって、消毒薬として用いられるポピドンヨード液等へのアレルギー反応経験者は服用不適切者であり、ヨード造影剤過敏症や甲状腺機能亢進症(こうしんしょう)、甲状腺機能低下症等の者は慎重投与対象者である。

[安村誠司 2020年2月17日]

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百科事典マイペディア 「安定ヨウ素剤」の意味・わかりやすい解説

安定ヨウ素剤【あんていヨウそざい】

非放射性のヨウ素をヨウ化ナトリウムやヨウ化カリウムの形で製剤したもの。ヨウ素は,甲状腺ホルモンの構成成分として必須の微量元素である。原発事故などで放出された放射性ヨウ素が口から体内吸収されると,甲状腺に濃集し甲状腺障害が起こり甲状腺がんや甲状腺機能低下を引起こす。放射性ヨウ素を取込む前に甲状腺をヨウ素で飽和しておくことを目的として服用する。放射性ヨウ素吸入直前の投与が最も効果的とされ,放射性ヨウ素の摂取による内部被曝の低減に効果があるとされる。2011年3月の福島第一原発の大事故の直後にアメリカで爆発的に売れ注目された。
→関連項目ヨウ(沃)素

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知恵蔵mini 「安定ヨウ素剤」の解説

安定ヨウ素剤

放射性ではないヨウ素をヨウ化カリウムの製剤として丸薬や内服液に加工したもの。原子力事故で環境中に放出された放射性ヨウ素を体内に取り込む前に安定ヨウ素剤を服用すると、放射性ヨウ素の甲状腺への集積を防ぎ、内部被ばくによる甲状腺がんや甲状腺機能低下症の発症リスクを低減させる効果がある。2012年、東京電力福島第一原子力発電所事故を受け、原子力規制委員会が安定ヨウ素剤を原発から主に半径5キロメートル圏の家庭に事前配布する方針を決定。13年3月末までに原子力災害対策指針に盛り込まれる予定となっている。

(2012-12-27)

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