総合課税・分離課税(読み)そうごうかぜいぶんりかぜい(英語表記)global income taxation 米語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「総合課税・分離課税」の意味・わかりやすい解説

総合課税・分離課税
そうごうかぜいぶんりかぜい
global income taxation 米語
separate taxation 英語

所得税の課税方式。

 所得税には、分類所得税と総合所得税の二つの類型がある。分類所得税というのは、所得をその源泉性質に応じていくつかの種類に分類し、おのおのの種類の所得に対して異なる控除額、課税所得の範囲、税率を設定・適用して課税する制度である。それに対して総合所得税というのは、所得の源泉や性質の違いを問題にすることなく、すべての所得額を合計した総額に対して一本化した税率表を適用して課税するものである。

 総合課税分離課税といった区別は、総合所得税制度を基本とした制度的枠組みのもとで意味をもつ。総合課税というのは、すべての種類の所得を一括して総額に課税するものであるが、分離課税というのは、総合所得税制度を原則としては採用しながらも、税務行政の簡素化のため、あるいは累進税率適用に伴う不当な税負担を緩和するために、特定の種類の所得を例外的に他の所得から分離して課税するものである。分離課税には土地譲渡益、あるいは株式等譲渡益の場合のように確定申告によって納税する申告分離課税と、利子、株式等譲渡益に対する分離課税のように所得を稼得する際に所要税額源泉徴収され、改めて申告納税する必要のない源泉分離課税に分類される。さらに源泉分離課税は、利子に対する分離課税のように、個人の選択の余地なく一律に課税されるため手続きの不要な一律源泉分離課税と、2001年(平成13)3月末まで認められていた株式等譲渡益に対する分離課税のように、源泉分離課税を選択する旨の申告書提出が必要な源泉分離選択課税とに分類される。

 日本では従来、利子所得配当所得譲渡所得が分離課税の対象とされてきた。1988年(昭和63)3月以前の制度においては、利子所得は、20%の源泉徴収率で源泉徴収するが総合課税されるか、または35%の源泉徴収率で源泉分離選択課税されるかを選択できた。また、確定申告不要の小額の利子所得は20%の源泉徴収をされた。地方税の住民税は所得税の総合課税については総合課税、源泉分離課税と確定申告不要の部分については非課税であった。現行制度(2009年度現在)においてはすべての利子所得が国税は15%、住民税は5%の率で源泉徴収され、源泉分離課税される。源泉分離課税制度とは、ほかの所得とまったく分離して、所得を支払う者が支払いの際に一定の税率で所得税を源泉徴収し、それだけで所得税の納税が完結するという制度である。

 配当所得は1988年(昭和63)3月以前には、20%の源泉徴収率で源泉徴収し総合課税されるか、または35%の源泉徴収率で源泉分離選択課税されるかを選択できた。現行制度においては、上場株式の配当については、総合課税または確定申告不要の20%(所得税15%、住民税5%)の源泉徴収で課税される。非上場株式等の配当については20%の源泉徴収が徴収され、総合課税される。1回の支払い配当の金額が少額の配当については所得税納税に確定申告は不要で20%の源泉徴収がされるのみであり、住民税は非課税である。証券投資信託(公募)の収益の分配については、2009年(平成21)の現行制度では総合課税されるか、または所得税は15%、住民税は5%の源泉徴収税のみが徴収され、確定申告の提出は不要である。

 土地、建物等にかかわる譲渡所得も分離課税の対象とされている。現行制度では、その年の1月1日において所有期間が5年を超える土地、建物等にかかわる長期譲渡所得は、特別控除後の譲渡益に15%の税率で、その年の1月1日において所有期間が5年以下の土地、建物等にかかわる短期譲渡所得は、30%の税率で分離課税される。また、山林所得の金額は、総収入金額-必要経費-特別控除額(最高50万円)で計算されるが、所得を生み出すまで長期の期間を要することから、課税所得額は
 {(課税山林所得金額÷5×税率)-控除額}×5
の5分5乗方式で計算され、分離課税される。

 退職所得の金額は、勤続年数に対応した退職所得控除額を控除して
 (収入金額-退職所得控除額)÷2
で算出される。退職所得の金額に所得税はほかの所得とは区分した分離課税がなされる。適用される税率は所得税の税率構造と同じ累進税率であるが、適用される課税所得はほかの所得とは区分された退職所得のみであり、ほかの所得とは別枠で分離課税される。住民税は市民税6%(県民税4%)×0.9である。

[林 正寿]

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