六訂版 家庭医学大全科 「老年期の病気の特徴」の解説
老年期の病気の特徴
ろうねんきのびょうきのとくちょう
Characteristics of geriatric diseases
(お年寄りの病気)
多臓器の障害と症状の現れ方
まず第一にあげられることは、多臓器に及ぶ障害があることです。高齢者は加齢に伴い多くの臓器の機能が低下しているために、ひとりで数多くの病気をもっていることが多くなります。したがって高齢者の診療に際しては、臓器の病気にだけ注目するのではなく、全身の状態をよく診るという全人的・包括的な診療が必須になります。
第二は、病気の症状が非特異的・非定型的であるということです。つまり、同じ病気でも青・壮年とは症状が違うため、誤診することが時としてあります。たとえば
症状が非定型的であるということは、とくに75歳以上の後期高齢者に多く、高齢者に意識障害、全身の
さまざまな要因と個別の対応
第三に、高齢者では青・壮年にはない特有な病態、すなわち認知症、転倒、失禁などの老年症候群と呼ばれる病態があることです。これらは75歳以上の後期高齢者にしばしば認められるものです。
第四に、薬剤に対する反応が青・壮年と違い、薬の有害作用(副作用)が出やすいという特徴があります。高齢者ではひとりで多くの病気をもっている例が多いため、服用する薬剤の数がどうしても多くなります。薬剤の数が多くなればなるほど、有害作用の発現する頻度が高くなるので、高齢者では服用している薬剤についてよくチェックすることが必要です。服用している多くの薬剤を中止したら、かえって患者さんの状態が改善したということも時々あります。
第五に、患者さんの生活の質(QOL)や予後が、社会的要因により大きく影響されるということです。家族の状況、住居の状態、経済的状態などについて、きめ細かく配慮する必要があります。
最後に重要なことは、高齢者では何ごとも個人差が大きいということです。加齢とともに個人差は広がり、身体的機能だけでなく人生観、死生観などの価値観も人により大きく違います。したがって、常に高齢者の考え方をよく理解し、QOLを第一義的に考え、その人に合わせたテーラーメイド医療を行うという姿勢が必要です。その際には、医師と患者さんとの間でインフォームド・コンセント(内容をよく説明してもらい、納得したうえで医療を受ける)をとることが大変重要です。
折茂 肇
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報