老年期の終末期医療(読み)ろうねんきのしゅうまつきいりょう(英語表記)Terminal care for elderly persons

六訂版 家庭医学大全科 「老年期の終末期医療」の解説

老年期の終末期医療
ろうねんきのしゅうまつきいりょう
Terminal care for elderly persons
(お年寄りの病気)

終末期とは

 高齢者の終末期とは、「病状が不可逆的かつ進行性で、その時代に可能な最善の治療により病状の好転や進行の阻止が期待できなくなり、近い将来の死が不可避となった状態」(日本老年医学会の「立場表明」より)です。高齢者になると急変したり急死することがよくあります。そのため、一般的に高齢者の余命を予測することは困難であり、このような曖昧(あいまい)定義となっています。

終末期医療

 終末期の医療およびケアは、ターミナルケア緩和(かんわ)ケア、ホスピスケアなどさまざまな呼び方をされますが、基本的には同義語です。

 死がさし迫った状態で回復の見込みがない場合に延命治療を行うことは、患者・家族に効果の割に多大な苦痛を強いる結果になることが多いとされます。そのため、終末期だと判断された場合は、延命することを治療およびケアの目標とはせず、心と体の痛みを取り除くことを目標とします。

 いい換えると、終末期の医療およびケア(=緩和ケア)は、全人的(ぜんじんてき)苦痛の除去緩和のための治療およびケアです。

終末期医療選択の注意点

 終末期医療の選択において、延命治療をどこまで望むかを選択することが重要です。これを医師に伝えることで、希望する終末期医療を受けられる可能性が高まります。延命治療の主なものには、心肺蘇生(しんぱいそせい)と人工呼吸療法があります。

心肺蘇生(しんぱいそせい)

 心停止・呼吸停止などの急変時に行う救命処置です。マスクによる強制換気を行いながら心臓マッサージにより血液の循環を維持したり、強心薬を投与します。電気的除細動器(じょさいどうき)を用いて体表より心臓に電気を流すこともあります。

 自発呼吸が再開しない場合には、人工呼吸療法を併用するのが一般的です。急に起こる致死性の不整脈などで急変し、心停止に至った場合に、心肺蘇生法が必要になります。

人工呼吸療法(じんこうこきゅうりょうほう)気管内挿管(きかんないそうかん)

 口(もしくは鼻)からプラスティックチューブを気管の中に挿入し(気管内挿管)、人工呼吸器を使って高濃度の酸素を肺の中へ送り込んで呼吸を補助する治療です。

 肺炎や心不全の悪化などにより呼吸機能が不十分な状態にある場合には全身が酸素不足になります。この状態が続くと生命に危険が及ぶので人工呼吸療法を行います。ただし、患者さんご本人と十分な意志疎通が図れなくなるおそれがあります。

 また、病状が悪化して自発呼吸が停止しても自動的に呼吸を続けるため、延命処置となる可能性がありますが、治療途中での人工呼吸療法の中止は社会的に問題となるおそれがあるため、一般的には困難です。

 ただし、社会的・倫理的制約やおかれている状況によっては、必ずしも希望通りにならないこともあります。また、書面による意思表示(事前指定書、リビングウィル)は、医師や周囲の方と相談するうえで有効な手段となりますが、法的な拘束力がないため、万能ではありません。やはり、信頼できる医師や家族にあらかじめ自身の思いを伝えておくことが必要です。

平川 仁尚

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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