日本大百科全書(ニッポニカ) 「聖家族(堀辰雄の小説)」の意味・わかりやすい解説
聖家族(堀辰雄の小説)
せいかぞく
堀辰雄(たつお)の短編小説。1930年(昭和5)11月号の『改造』に発表。32年江川書房刊。「死があたかも一つの季節を開いたかのやうだつた」という文を冒頭に置き、九鬼(くき)という人物の「突然の死」から始まる、彼とつながる3人の男女(河野扁理(へんり)、細木(さいき)夫人、その娘絹子)の愛をめぐる関係を描いた小説。ラディゲから学んだ登場人物の心理の起伏を明晰(めいせき)に解剖する手法によって、昭和初年代に流行した新心理主義文学の一翼を担い、堀の文壇出世作となったが、同時に「死を自分の生の裏側にいきいき」と感じながら自己確立を遂げる青年扁理の姿には、その師芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)の死を含む己の人生上の危機を越えようとする堀の意志の投影が認められる。
[大橋毅彦]
『『燃ゆる頬・聖家族』(新潮文庫)』