肛門癌(読み)こうもんがん(英語表記)cancer of anus

改訂新版 世界大百科事典 「肛門癌」の意味・わかりやすい解説

肛門癌 (こうもんがん)
cancer of anus

直腸癌のうち,肛門管の領域にできた悪性腫瘍をいい,全直腸癌の2~3%の頻度でみられる。肛門管とは,下方会陰部の毛の生え際に一致する肛門下縁から,上方は肛門粘膜が直腸粘膜に移行するところまでの長さ平均約3cmの部分をいう。組織解剖学的にもいろいろな型の癌があり,扁平上皮癌が多いが,腺癌も発生し,急速に深部に浸潤して進んでいく。そして鼠径部(そけいぶ)のリンパ節転移を起こすのが特徴的である。特殊なものとして黒色腫や肛門周囲アポクリン腺癌があり,まれではあるが痔瘻(じろう)から発生した痔瘻癌もこれに含まれる。症状は,排便時の出血,局所の疼痛,肛門部の不快感やしこりのある感覚などで,下着の汚染や肛門周囲の搔痒(そうよう)感,しめった感じを伴うことから,初期にはいぼ痔と間違えやすいので注意が必要である。そのほか,便秘や便が細くなったり,ときには自分でしこりが触れられることがある。診断は,肛門から直腸に向かって指を入れて硬い腫瘤の有無をみる直腸指診のほかに,直接その硬い部分から組織の一部分を切り取って生検を行い,病理学的に顕微鏡的に癌を診断する。ときには,この硬い腫瘤の表面がくずれて潰瘍となり,出血していることもある。治療は手術がただ一つの治療法である。術式は直腸癌の手術と同様で,直腸切断術および人工肛門造設術である。肛門周辺の皮膚を円形に大きく切開し,癌と肛門周囲の組織を直腸とともに切断する。そしてS状結腸で左下腹部に人工肛門をつくる。自然肛門の切除した部分は縫合して閉鎖する。鼠径部にリンパ節転移があれば,この部分のリンパ節も同時に切除する。肛門癌の予後は一般に不良で,根治手術のできるものは少ない。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「肛門癌」の意味・わかりやすい解説

肛門癌
こうもんがん
cancer of the anal canal

肛門部の癌。肛門は直腸の下端であるが,直腸とは異なる複雑な構造をしているので,肛門癌は直腸癌から独立した疾患として取扱われている。発生頻度は比較的低く,全大腸癌の3~8%である。治療は,リンパ流の特徴と周囲浸潤傾向を考慮し,会陰部ならびにリンパ節の郭清を十分に加えた直腸切断術を行う。

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