六訂版 家庭医学大全科 「肛門がん」の解説
肛門がん
こうもんがん
Anal cancer
(直腸・肛門の病気)
どんな病気か
肛門の入り口から約3㎝にわたる管状の部分(肛門管)に生じるがんを総称して、肛門がんといいます。大腸がん(結腸がん、直腸がん)に比べると、その頻度はまれです(大腸がんの約4%)。
組織型からみると、肛門がんの大部分は
がんの発育形式は、肛門管のなかから発生した管内型と、肛門管の外から発生した管外型に分類されます。
一般的に、肛門がんは60~70歳に最も多く発生します。肛門管の上部にできるがんは比較的女性に多く、
原因は何か
肛門がんが発症する原因は、大腸がんやほかのがんと同様、まだよく解明されていません。一部の肛門上皮内がんや扁平上皮がんは、ヒトパピローマウイルスの感染と関連して発症することが知られており、なかでもHIV(ヒト免疫不全ウイルス)陽性者や男性同性愛者は、発症のリスクが大きいといわれています。
また、大きな尖圭(せんけい)コンジローマや長期間にわたる複雑痔瘻(ふくざつじろう)(コラム)に合併して、肛門がんが発生することもまれにあります。
症状の現れ方
主な症状は、しこり、かゆみ、出血、疼痛、粘液分泌、便通異常(便秘、便失禁)などです。時にこれらの肛門の症状がなく、
これらの症状は、最初は軽度であっても、徐々に進行していくのが肛門がんの特徴です。
検査と診断
検査は、まず肛門部の診察を行います。肛門管内の病変は、指診で比較的硬い
肛門縁の病変は、左右の
このように肛門診察で、痔疾患や通常の
肛門が高度に
画像検査としてはCT、MRI、肛門管超音波検査などが行われ、局所の病変の広がりや転移病変の有無を調べます。
治療の方法
●扁平上皮がん
扁平上皮がんの治療方針は、がんが小さく肛門括約筋まで
がんが肛門括約筋まで浸潤している場合、以前は永久的人工肛門造設を伴う直腸切断術が行われていました。しかし、扁平上皮がんは放射線感受性が強く(効果がある)、フルオロウラシル(5FU)やマイトマイシンなどの抗がん薬と併用した放射線療法(30~60グレイ)が非常に有効であるため、現在では抗がん薬を併用した放射線療法で肛門を残す治療が推奨されています。
この治療の予後は5年生存率が70%を超え、合併症も少なく肛門の括約筋機能も残ります。照射後、がんが消失し、生検でがん細胞が残っていなければ、治療終了となります。
がんが残っている場合には、直腸切断術などの根治的切除を行いますが、残った部分が非常に小さい場合は、再度化学放射療法を行い、永久的人工肛門を造設しなくてもよい場合もあります。
●その他
パジェット病やボーエン病は、がんの発育がゆっくりで悪性度も低いため、上皮内だけに存在しているものは広範囲局所切除を行えば、予後は良好です(コラム)。
腺がんや粘液がんに対しては、直腸がんに準じた外科的治療(直腸切断術、局所切除術など)を行います。一般に大きさが2㎝以下でリンパ節転移を伴わなければ、予後は比較的良好です。
悪性黒色腫は、直腸切断術または局所切除術を行いますが、ほかの臓器へ転移しやすく進行も早いため、極めて予後不良です(コラム)。
病気に気づいたらどうする
肛門部の症状がある時は、自己判断をせずに肛門科または外科を受診することが大切です。痔や湿疹だろうと自分で思い込み、市販薬で治療していると病気が進行してしまうことがあります。
日ごろの生活では、肛門部の清浄の際にしこりや痛みがないかどうか、注意しておくとよいでしょう。
山名 哲郎
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報