肝・胆道疾患患者のみかた

内科学 第10版の解説

肝・胆道疾患患者のみかた(総論,肝・胆道の疾患)

(1)発見の契機
a.健康診断,人間ドック,献血
 慢性肝疾患は自覚症状のないことが多く,健康診断などの機会に肝機能異常で発見されることが多い.特に脂肪性肝疾患やアルコール性肝障害はこの傾向が強い.B型肝炎は健康診断のほかに家族調査や献血などで発見されることも多い.C型肝炎発見の契機をみると,71%は健康診断などで発見され,自覚症状で発見されるのは13%にすぎない.さらに,B型およびC型慢性肝炎ではトランスアミナーゼ値が基準値内を示すことが多く,そのスクリーニングには肝炎ウイルスマーカーの検査が必要とされている.
b.倦怠感,食欲低下,瘙痒感,黄疸,腹痛
 急性肝炎や慢性肝炎の急性増悪でトランスアミナーゼが急激に上昇する場合,さらに肝予備能が低下する場合は倦怠感,食欲低下などの症状が出現する.これら症状の特異性は低いが,肝・胆道疾患発見の契機となる.黄疸は肝胆道疾患に特異性が高く,重要な症状である.皮膚の黄染ばかりでなく,褐色尿で気がつくことも多い.胆汁うっ滞に伴う黄疸では瘙痒感を伴いやすい.右季肋部を中心とした腹痛は胆石症のみならず,肝胆道系の感染症や悪性疾患発見の契機となる.
(2)医療面接のポイント
a.現病歴
 急性の肝障害では,発症前6カ月間の生活歴や薬物歴を詳細に聴取する.生活歴では,観血的医療行為,海外渡航,性的接触,生の魚介類やブタ・イノシシ・シカの生肉摂取,大量飲酒,薬物乱用の有無などを聴取する.薬物歴では,医療機関で使用するもの以外に,漢方薬や健康食品などにも注意する.慢性の肝障害では,飲酒,肥満,薬物などについての聴取は基本である.症状の出現やその推移を聴取することは当然であるが,この中で,黄疸,腹水,肝性脳症などの肝不全症状の有無を確認することは重要である.
b.既往歴
 手術歴,輸血歴,薬物乱用歴,刺青歴は肝炎ウイルスの感染経路の推定に役立つ.飲酒歴では機会飲酒,常習飲酒家(日本酒換算3合/日以上),大酒家(日本酒換算5合/日以上)などを区別する.日本住血吸虫症,エキノコックス症などの診断には居住地域が関連する.
c.家族歴
 特に,家族集積性のあるB型肝炎や血族結婚で頻度が高い遺伝性代謝性疾患では家族歴の聴取が重要である.
(3)身体診察のポイント
a.意識状態
 肝性脳症は肝不全に伴う意識障害でありⅠ~Ⅴ度に分類される.この脳症に特徴的な羽ばたき振戦はⅡ度とⅢ度でみられやすい.
b.栄養状態
 過栄養は非アルコール性脂肪性肝疾患のおもな原因であり,BMI(body mass index)などで評価して診断の参考にする.非代償性肝硬変では脂肪組織や筋肉量が減少し栄養状態は悪化しやすい.しかし,水分貯留のため体重は減らないことも多い.
c.黄疸と皮膚症状
 眼球結膜は白色であり柑皮症では黄染しないので,皮膚に比較して黄疸の判定がしやすい.血中総ビリルビンが2.0~3.0 mg/dL以上になると黄疸を肉眼的に確認することが可能であり顕性黄疸とよばれる.
 手掌紅斑,くも状血管腫,女性化乳房などの所見は慢性肝疾患,特に肝硬変の診断に有用である.慢性の胆汁うっ滞では,瘙痒感による搔き傷や高コレステロール血症に伴う黄色腫がみられることがある.
d.腹部
 肝の大きさは肝濁音界の確認と触診により評価する.肝が触知されることは必ずしも異常ではないが,右鎖骨中線上肋骨弓下に2横指以上触知する場合や硬度が増している場合は異常所見としてとらえる.肝萎縮では肝濁音界が縮小する.脾濁音界の拡大や脾の触知は脾腫の存在を示唆する. 腹水は重要な肝不全症状であり,腹部は膨隆し体重の増加を伴う.腹壁静脈の怒張は門脈圧亢進症または下大静脈閉塞に伴う側副血行路の発達を示唆する.前者の血流は臍を中心に頭側と下肢側に分かれて流れるのに対し,後者の血流はすべて頭側に向かって流れる.
 黄疸を伴う無痛性胆囊腫大をCourvoisier徴候といい,総胆管末端部の悪性腫瘍を疑う.胆囊部を圧しながら深呼吸をさせたとき,痛みのために呼気を急に止める徴候をMurphy徴候といい,急性胆囊炎が示唆される.
e.四肢
 肝不全の所見として,腹水に先行して浮腫が出現することが多い.
(4)肝障害と肝機能検査
 肝は合成,代謝,解毒,排泄など多彩な機能を営み,かつ旺盛な再生能をもつ臓器である.臨床の現場では多数の肝機能検査法が用いられているが,それぞれは必ずしも肝全体を反映するものではない.したがって,それぞれ特徴の異なる検査を組み合わせることにより,肝疾患の病態をより正確に把握することが可能となる(図9-1-1)(田中,2010;池田ら,2006).
a.肝炎型肝障害と胆汁うっ滞型肝障害
 肝障害の病態は,大きく肝炎型(肝細胞傷害型)と胆汁うっ滞型に分けると理解しやすい(図9-1-1).両者の鑑別は,逸脱酵素であるAST・ALTの上昇と胆道系酵素であるALP・γ-GTPの上昇の程度を比較することにより判定する.ただし,肝炎型の肝障害でも胆道系酵素が軽度に上昇することはまれではなく,逆に胆汁うっ滞型の肝障害でも軽度の逸脱酵素の上昇はみられる.このため,両者の鑑別は,どちらが優位に上昇しているかで判断する.このときに気をつけることは,逸脱酵素はその性格上,基準値上限から10倍以上に上昇することもまれではないが,胆道系酵素は酵素誘導により上昇するため,基準値上限の3倍以上は明らかな上昇,5倍以上は高度の上昇と判断される.なお,両者とも有意に上昇している場合は混合型と判定する.
b.肝細胞の変性・壊死を反映する酵素(肝逸脱酵素:AST,ALT)
 AST(asparate aminotransferase),ALT(alanine aminotransferase)は肝細胞の変性・壊死により血中に増加する逸脱酵素である.ASTは心筋,骨格筋,血球の破壊によっても上昇するが,ALTは肝細胞傷害に対する特異度が高い.一般にAST/ALT比は肝障害の病態判定に役立つので,両者を同時に測定するのがよい.慢性肝炎,肥満による脂肪肝ではALT優位,肝硬変,肝癌,アルコール性肝障害ではAST優位の傾向がみられる.急性肝炎の発症早期はAST優位であり,ピーク近傍になるとこれがALT優位に逆転する.このため,この逆転が観察されると,その後ASTとALTは低下し始める可能性が高い. 通常,閉塞性黄疸ではAST,ALTの上昇は軽度である.しかし,総胆管結石の嵌頓などで胆道内圧が急激に上昇するとAST,ALTも1000 IU/L以上に上昇することがある.この場合,肝炎とは異なり,胆管閉塞が解除されるとAST,ALTは速やかに低下する.
c.胆汁うっ滞を反映する酵素(胆道系酵素:ALP,γ-GTP)
 肝内および肝外の胆汁うっ滞では,肝細胞の毛細胆管側を主としたALP(alkaline phosphatase)の生成亢進と血中への逆流によって血中ALP値が増加する.病態としては,薬物性肝障害などの急性肝内胆汁うっ滞,原発性胆汁性肝硬変症などの慢性肝内胆汁うっ滞,閉塞性黄疸が代表的なものである.その他,限局性肝疾患,浸潤性肝病変,肉芽腫性肝疾患でも ALP の上昇がみられる.ALPにはアイソザイムが存在し,肝胆道系以外の原因を鑑別するのに役立つ.骨性ALPは成長期,癌転移,甲状腺機能亢進症などで骨形成が亢進する場合に上昇する.胎盤性ALPは妊娠後期と一部の癌で上昇する.小腸性ALPは肝硬変や高脂肪食後に上昇する.高脂肪食後の上昇は血液型がB型とO型でみられやすい.
 γ-GTP(gamma glutamyl transpeptidase)はALPと同様に胆汁うっ滞を反映する.ただし,ALPに比較して肝胆道系特異性が高いことと,飲酒で上昇しやすいことが特徴である.
d.合成・代謝機能障害の評価(アルブミン,ChE,PT,総コレステロール)
 アルブミンは肝細胞で合成される分泌蛋白であり,慢性肝不全の評価や経過観察に有用である.血清アルブミンの半減期は14~20日と長いため,リアルタイムに肝の蛋白合成能を評価することはできない.これに対し,半減期の短い第Ⅶ因子(4~6時間)を含むPT(プロトロンビン時間)は肝での蛋白合成能をリアルタイムに評価することが可能であり,急性肝不全の評価に適している.PTにはビタミン K 依存性の凝固因子が多く,ビタミン Kの不足により延長するので注意する.
ChE(コリンエステラーゼ)は肝細胞において合成され血中に分泌される酵素で,アルブミンと同様に肝の蛋白合成能を反映する.ChEは分子量が大きく,ネフローゼ症候群でも尿中へ漏出しない.このため,アルブミンと異なりネフローゼ症候群では高値となる.
総コレステロールは肝での合成能を反映して重症肝障害で減少する.これに対し,胆汁うっ滞では増加する.肝疾患以外でも変動するので肝障害に対する特異性は低い.
e.解毒・排泄機能の障害(ビリルビン,総胆汁酸,ICG試験,アンモニア)
 各種疾患で血中ビリルビンが上昇すると黄疸として認識される.原因の鑑別には,まず,間接型と直接型のどちらのビリルビン上昇が優位かを判定する.通常,肝胆道疾患の黄疸では直接型が優位となる.総ビリルビン値の上昇に加え,直接/総ビリルビン比の低下は病態の悪化を示唆する.AST,ALT,ALP,γ-GTPが基準値内でビリルビンのみ上昇する場合は溶血か体質性黄疸を考える. 胆汁酸の代謝は肝細胞に特異的な機能であり,血中胆汁酸濃度は肝胆道疾患の障害の程度を反映して上昇する.このため,無黄疸性肝疾患の検出に有用である. ICG(インドシアニングリーン)試験は肝血流量と肝細胞の色素摂取機能を反映し,肝硬変の診断や肝予備能の評価などに用いられる.肝切除の術前検査として重要である.ICG 試験の指標としては,15 分停滞率,血中消失率,最大除去率などがある.
 血中アンモニア濃度は,重症の肝細胞傷害,先天性代謝異常により尿素サイクルが障害された場合や肝内外の門脈・大静脈短絡がある場合などに上昇する.肝性脳症を惹起する原因物質の1つである.アンモニアは尿素サイクルで代謝され尿素となり腎から排泄される.高度の肝障害では尿素サイクルが機能しなくなるため,劇症肝炎では血中尿素窒素(BUN)が低値となり,重傷度を判定するマーカーとなる.
f.間葉系の反応(ガンマグロブリン,膠質反応,免疫グロブリン)
 免疫グロブリン以外の多くの血漿蛋白は肝で合成されるため,血清蛋白の電気泳動分画パターンは肝疾患の病態把握に有用である.必ずしも肝障害に特異的ではないが,アルブミンの減少とガンマグロブリンの増加(多クローン性)は慢性肝障害を示す指標となる.慢性活動性肝炎ではIgG を主とした免疫グロブリンが増加し,特に自己免疫性肝炎では著増する.原発性胆汁性肝硬変ではIgMが,アルコール性肝障害ではIgA が増加しやすい.ZTTなどの膠質反応は,血清アルブミンの減少と免疫グロブリンの増加を反映して上昇するので,慢性肝疾患のスクリーニングに役立つ.
g.肝線維化マーカー
 肝線維化の診断は肝疾患の病態や重症度を把握する上で重要である.肝生検による評価が正確で情報量も多いが,より簡便な診断が必要な場合も多く,ヒアルロン酸,PⅢP(Ⅲ型プロコラーゲンペプチド),Ⅳ型コラーゲンなどの肝線維化マーカーが開発された.いずれの項目も肝線維化の程度を正確に反映するものではなく,臨床的にはそれぞれの線維化マーカーの特徴を理解した上で使用する必要がある.
 肝線維化が進行すると脾機能亢進症に伴い血小板数が低下するので,血小板数は肝線維化を反映するマーカーとなる.簡便な検査で,比較的正確な判定が可能であることより臨床的有用性は高い.血小板数が10万μL以下になると肝硬変の合併が示唆される.
h.肝癌,胆道癌の評価
 肝細胞の癌化ではAFP,AFP-L3分画,PIVKA-Ⅱが,胆管細胞の癌化ではCA19-9,CEAなどが腫瘍マーカーとして用いられている.
i.肝障害の原因検索
 肝炎ウイルスマーカーはウイルス肝炎の診断に不可欠である(田中ら,2006).急性肝炎ではIgM-HAV抗体,HBs抗原,IgM-HBc抗体,HCV抗体,HCV RNA,IgA-HEV抗体,HEV RNAなどの検査が診断に役立つ.慢性肝炎の診断ではHBs抗原とHCV抗体の検査は必須である.肝炎ウイルス以外にも肝障害を惹起するウイルスは多く,EBウイルスやサイトメガロウイルスがその代表である.抗核抗体,抗ミトコンドリア抗体の測定は自己免疫性肝疾患の診断に必須である.インスリン抵抗性の指標としてHOMA指数などが用いられており,非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の診断などに利用されている.内分泌疾患でも肝機能異常を伴うことが多く,特に甲状腺疾患は頻度が高い.銅,セルロプラスミンはWilson病の,鉄,フェリチンなどはヘモクロマトーシスの診断に役立つ.肝生検は原因不明の肝障害の精査のみならず,多くの肝疾患の病期や病態を把握するのに有用な検査である.[田中榮司]
■文献
池田健次,田中榮司,他:肝機能検査法の選択基準(7版).日消誌,103: 89-95, 2006.
田中榮司:肝・胆道機能検査.臨床検査法提要,第33版(奥村伸生,戸塚 実,他編),pp1318-1363,金原出版,東京,2010.
田中榮司,池田健次,他:肝疾患における肝炎ウイルスマーカーの選択基準(4版).日消誌,103: 79-88, 2006.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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