黄色腫(読み)おうしょくしゅ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「黄色腫」の意味・わかりやすい解説

黄色腫
おうしょくしゅ

病理組織学的には脂質の蓄積したいわゆる黄色腫細胞泡沫(ほうまつ)細胞)が真皮や腱(けん)の細胞内に巣状に浸潤しており、肉眼的には黄色調の丘疹(きゅうしん)、結節、斑(はん)などを呈する疾患をいう。病因的には高リポタンパク血症に伴う脂質異常による黄色腫と、リポタンパク代謝異常はないが組織球の肉芽腫あるいは腫瘍(しゅよう)性増殖に続発する正脂血症による黄色腫に大別される。さらに脂質異常による黄色腫は、遺伝性家族性高リポタンパク血症に合併する原発性と、続発性のものに細分され、さまざまな形態をとる。近年、これら形態の相違と高リポタンパク血症の種類との関連が注目されている。まず、肘(ひじ)や膝蓋(しつがい)にみられる結節性黄色腫は難治で、発現頻度も比較的高い。発疹(はっしん)性黄色腫は直径2~3ミリメートルの丘疹が急速に顔面、臀部(でんぶ)、手掌に出現するもので、血中のトリグリセリド単純脂質)の上昇がみられることが多い。眼瞼(がんけん)黄色腫も日常よくみられるものの一つで、上眼瞼の内眼角(目頭)に好発する扁平(へんぺい)隆起性の黄色斑であり、血清脂質は正常のことも多い。そのほか、血液疾患や免疫異常など多彩な発症基盤をもつ扁平黄色腫、手掌の掌紋に一致して生じる線状黄色腫などもある。

 黄色腫の組織像は、胞体の明るい大形の単核細胞である泡沫細胞が巣状に集合しているが、長く放置されたものではトウトンtouton型巨細胞(胞体が泡沫化した多核巨細胞)もみられる。脂肪染色としておもにスダンsudan(アゾ色素の一種)を用いた染色が行われ、泡沫細胞の胞体では陽性である。このように黄色腫は臨床や組織の面から診断が容易であるが、その病態発生については不明な点も多い。最近では脂質の沈着というよりも、泡沫細胞が能動的に脂質を蓄積しているという考えが強く、ある種のリポタンパクに対するレセプター(受容器)異常や粥(じゅく)状硬化症(動脈硬化症の一種)との関連も注目されている。

 治療としては、コレステロールの摂取を制限する食事療法、クロフィブラートコレスチラミンなどの薬物療法、ヘパリンコンドロイチン硫酸などの局所注射療法のほか、手術療法なども行われるが、原発性高コレステロール血症性黄色腫の場合などは難治である。

 なお、全身に広がり、とくに全身性の脂質代謝異常と関連している場合は、黄色腫症とよばれている。

[窪田泰夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「黄色腫」の意味・わかりやすい解説

黄色腫
おうしょくしゅ
xanthoma

脂質代謝異常により皮膚に黄色の腫瘤を生じる状態。臨床所見により結節性黄色腫,扁平黄色腫,眼瞼黄色腫,腱性黄色腫,発疹型あるいは播種状黄色腫などに分類される。また原因論的には次の3つに大別される。 (1) 先天性脂質代謝異常に基づく黄色腫 リポ蛋白の代謝障害に基づくもので5型に分けられている。 (a) 第1型 ビュルガー=グラッツ病。先天性リパーゼ欠如により血中カイロミクロンが増加する。全身皮膚や粘膜に発疹型黄色腫が発生し,反復性腹痛,肝脾腫を合併する。 (b) 第2型 家族性高コレステロール血性黄色腫症。臨床的には結節性黄色腫で,腱性黄色腫,眼瞼黄色腫を合併する。若年期から全身の血管組織にコレステロール沈着をきたし,冠状動脈障害,脳動脈障害を生じるほか,黄色腫性胆汁性肝硬変もみられる。 (c) 第3型 高コレステロール血症と高脂血症の混合型。臨床的には結節性黄色腫が基調で,発疹型,眼瞼,腱の各黄色腫を併発し,心血管病変を合併する。 (d) 第4型 血中プレβ-リポ蛋白が上昇する。優性遺伝によるもの以外に糖尿病,痛風,肝疾患,慢性アルコール中毒者などに生じる。臨床的には発疹型で,躯幹や四肢伸側に小丘疹が多発する。 (e) 第5型 血中中性脂肪,プレβ-リポ蛋白,カイロミクロンが上昇する。臨床的には発疹型であるが,一部は結節型となる。成人に生じ,動脈硬化や膵炎を併発する。 (2) 後天性続発性 (全身性) 黄色腫症 肝疾患,腎疾患,慢性膵炎,各種の全身性代謝異常などに続発した黄色腫。四肢伸側,特に関節背面に皮疹が現れる。血清中の中性脂肪,コレステロールの増加による。 (3) 局所脂質代謝障害による黄色腫 眼瞼黄色腫。中高年女子の上眼瞼内側に扁平に隆起する黄白色皮疹である。血中コレステロールや中性脂肪の増加が通常みられないので,眼瞼黄色板とも呼ばれる。そのほか,ハンド=シュラー=クリスチャン病で発疹型黄色腫の発生をみることがある。この場合は脂肪代謝異常を認めない。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

栄養・生化学辞典 「黄色腫」の解説

黄色腫

 黄色板症ともいう.皮膚や粘膜に脂質を含有する脂肪球(泡沫細胞)が浸潤する疾患.高脂血症性のものと低脂血性のものがある.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の黄色腫の言及

【肝硬変】より

…頑固な皮膚搔痒(そうよう)感と持続進行性の黄疸が特徴的な症状で,そのほか肝硬変の症状を伴う。黄色腫(両眼瞼に多い)も高率にみられる。しかし,なかには症状を欠くものもみられる(これを無症候性原発性胆汁性肝硬変という)。…

※「黄色腫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

世界の電気自動車市場

米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...

世界の電気自動車市場の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android