マダラ,スケトウダラなどのタラ科の魚や,マグロ,カジキ,サメなどの肝臓から採取した脂肪油。一般に脂溶性ビタミンAおよびDを豊富に含むが,とくにビタミンAの含有量が多く,天然ビタミンAの供給源として重要であった。肝油は古来エスキモー人やグリーンランド,ノルウェーおよびスコットランドの住民が薬用としていたが,18世紀にイギリス人が初めて臨床に使用した。日本で初めて作られたのは1877年(明治10)のことである。1914年肝油中に動物の成長促進成分および抗眼炎性の微量成分のあることが発見され,20年ドラモンドJ.C.DrummondによりビタミンAと呼ばれたが,22年マッコルムE.V.McCollumがA以外の抗くる病因子,すなわちビタミンDのあることを発見し,古来肝油のもつ主として二つの医薬効果が別個の因子によることがわかった。このように肝油の効力はその中に含有されるビタミンAおよびDの含有量で決定されるので,それらビタミンの国際単位で効力を表すのが普通である。
化学的性状は動物の種類,漁期,飼料,年齢,性別等によって異なるが,その成分は種々の脂肪酸のグリセリンエステルから成る。良質な肝油は淡黄色で魚臭および不快臭も少なく,酸価,ヨウ素価は低く,不ケン化物含量も低い。ビタミンAやDは今日では合成されており,肝油の薬用としての用途は減少しつつあるが,食品強化,家畜飼料としても用いられている。
製法には,煎取(いりとり),煮取(にとり),蒸煮,アルカリ消化の諸法があるが,現在は蒸煮およびアルカリ消化法が主として用いられる。前者はタラ,サメのように肝臓に含油量の多いものに用い,後者はビタミンAおよびDの含量の豊富な肝臓に用いる。粗製肝油には多少のかすや水分,固体脂を混入するため,低温で固体脂を析出させ,ろ過して透明な精製肝油とする。
(1)タラ肝油 肝油のうちで最も重要なもので,約15%の飽和脂肪酸と約85%の不飽和脂肪酸とからなり,ビタミン含量はとくに多くはないが,肝臓からの採油が容易で産額も多い。(2)サメ肝油 一般に不ケン化物含量が多く,アイザメの肝油は80%以上不ケン化物を含む。クロコザメなど深海産のサメの肝油は不飽和度の高い炭化水素スクアレンC30H50を含有する。これを分離して水素添加したスクアランC30H62は凝固点がきわめて低いので耐寒潤滑油,作動油,絶縁油として,また化粧品,医薬品としても利用される。
執筆者:内田 安三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
マダラまたはスケトウダラの新鮮な肝臓および幽門垂から得た脂肪油で、1グラム中にビタミンAを2000~5000IU(国際単位)含み、その約10分の1のビタミンD3を含む。黄色ないし橙(だいだい)色の油液で、わずかに魚臭を帯びた特異なにおいがある。かつてくる病などの予防、治療に用いられたのは、このビタミンによる効果であった。現在ではビタミンAとDの欠乏症に広く用いられるほか、ビタミンA欠乏または代謝障害が関与するとみられる角化性皮膚疾患の治療のため、創傷またはびらん面に外用される。内服には飲みやすい軟カプセルの肝油球がある。
[幸保文治]
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サメ,マグロ,クジラ,タラなどの肝臓を水とともに加圧加熱すると得られる脂肪油.主成分は脂肪酸のグリセリンエステル.これらの肝油にはビタミンA,Dが含まれるが,なかでもビタミンAの含有量が多く,天然ビタミンAの資源として重要である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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