背理法(読み)ハイリホウ(英語表記)proof by contradiction; reductio ad absurdum

デジタル大辞泉 「背理法」の意味・読み・例文・類語

はいり‐ほう〔‐ハフ〕【背理法】

ある判断否定し、それと矛盾をなす判断を真とすれば、それから不条理な結論が導き出されることを明らかにすることによって、原判断が真であることを示す証明法。帰謬きびゅう法。間接還元法間接証明。→直接証明

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精選版 日本国語大辞典 「背理法」の意味・読み・例文・類語

はいり‐ほう ‥ハフ【背理法】

〘名〙 ある命題を証明するのに、結論を否定すれば矛盾が生ずることを示して、その結論の正しいことを証明する方法帰謬法

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「背理法」の意味・わかりやすい解説

背理法
はいりほう
proof by contradiction; reductio ad absurdum

命題仮定のほかに,結論の否定を仮定して推論を行ない,そこから導かれる矛盾を示すことで命題を証明する方法。帰謬法(きびゅうほう)とも呼ばれる。数学における重要な証明方法の一つである。背理法を用い,素数が無限にあることを証明すると以下のようになる。素数が有限個であると仮定して,それら全体を p1p2,…,pn とする。これらの積に 1を加えた N=1+p1p2pn の素因数 q を考える。素数全体は p1p2,…,pn であると仮定しているので,qp1p2,…,pn のどれかと一致する。ここで,qN の素因数であるとしているので N の約数となるが,上の式より,Nq で割って 1余るので矛盾である。したがって,素数は無限に存在する。このように素数が無限にあることを証明する論法は,ユークリッドの『原本』においてすでに用いられている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「背理法」の意味・わかりやすい解説

背理法
はいりほう
reductive absurdum

ある命題が真であることを証明するため、その命題の「結論が偽である」と仮定して推論を進め、矛盾が導かれることを示す方法である。つまり、その命題が成り立たないと仮定すると、すでに真であるとわかっている事実や、元の命題の仮設などに矛盾する結果が得られることから、間接的にその命題が正しいことを示すのである。矛盾を導くことによって、誤りであるとした仮定を否定することになるので帰謬法(きびゅうほう)(謬すなわち誤りに帰着させる方法という意)とよぶことがある。これは対偶の考えを利用した間接証明法の一種である。

 次は、既知の事実に矛盾することを示す例である。「凸多角形内角のうち、鋭角であるものは3個より多くない」。この命題を証明するために、その結論を否定して、鋭角が4個以上存在したと仮定する。すると、それらの鋭角の頂点における外角はすべて90度以上であるので、それらの和は360度以上となる。このことは「多角形の各頂点における外角の総和は360度である」という定理に矛盾する。次は、元の命題の仮設に矛盾することを示す例である。「αを無理数とすると、β=2α+1はまた無理数である」。この命題の結論を否定して、βは有理数と仮定する。与式を変形してα=(β-1)/2となる。ところが、有理数の和・差・積・商は、ゼロで割る場合を除いて、その結果はまた有理数であるから(β-1)/2は有理数、つまり、αは有理数となって、元の命題の仮設に矛盾する。

 背理法は古代ギリシアから知られ、ユークリッドの『幾何学原本』は「素数は無限個存在する」ことを背理法で証明している。

古藤 怜]

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改訂新版 世界大百科事典 「背理法」の意味・わかりやすい解説

背理法 (はいりほう)
reductive absurdity

数学における証明法のうち,重要なものの一つ。証明すべき命題の仮定の外に,結論の否定をも仮定して推論を行い,矛盾を導くことにより,もとの命題を証明する方法である。〈誤りに帰着させる〉という意味で帰謬(きびゆう)法とも呼ばれる。素数が無限にあることを背理法で証明してみよう。素数が有限個しかなかったと仮定して,それら全体をp1p2,……,pnとしよう。N=1+p1p2……pnの素因数qを考えると,qp1p2,……,pnのどれかと一致するのだから,右辺はqで割って1余る。これは,qNの因数であることに反する。それゆえに素数は無限にある。
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世界大百科事典(旧版)内の背理法の言及

【証明】より

…直接証明法は仮定から出発して,既知の定理などを利用しながら三段論法によって進むものである。直接証明法でないものが間接証明法であるが,その中には同一法転換法背理法がある。これらのうち,背理法がもっとも重要であり,それは,証明すべき命題の結論の否定を仮定に加えて矛盾を導く方法で,帰謬法とも呼ばれる。…

※「背理法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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