能う(読み)アタウ

デジタル大辞泉 「能う」の意味・読み・例文・類語

あた・う〔あたふ〕【能う】

[動ワ五(ハ四)]《もと必ず打消しを伴い、活用語連体形に「こと」や助詞」を付けて「…にあたわず」「…ことあたわず」の形で多く用いられたが、明治以後は肯定の言い方もみられる》
可能の意を表す。なしうる。できる。「行くこと―・わず」「味については議論するに―・わず」
「危きに臨めば平常なし―・わざる所のものを為し―・う」〈漱石吾輩は猫である
理にかなう。納得がいく。
「―・はぬことなり。はや出だし奉れ」〈竹取
適する。相当する。
「此れ汝が着る物に―・はず」〈今昔・二三・一八〉
[補説]1の肯定の言い方は、欧米語の可能の助動詞翻訳として広まった。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「能う」の意味・読み・例文・類語

あた・うあたふ【能】

  1. 〘 自動詞 ハ行四段活用 〙 ( あとに必ず打消を伴って用いられたが、明治以後は肯定形も見られる。従って、「あたは」「あたふ」の形だけが用いられる )
  2. 可能の意を表わす。できる。
    1. (イ) 活用語の連体形に「こと」や助詞「に」を添えた形に付く。
      1. [初出の実例]「程遙にして輙(たやす)く来り給はむに不能(あたは)じ」(出典:今昔物語集(1120頃か)二)
      2. 「車は輪をめぐらす事あたはず」(出典:平家物語(13C前)一一)
    2. (ロ) 活用語の連体形に直接付く。
      1. [初出の実例]「開明の世となるに及べば浮(フ)ヘイブルもまた変遷して多少の進化なきあたはず」(出典:小説神髄(1885‐86)〈坪内逍遙〉上)
    3. (ハ) 動詞の連用形に付く。肯定の表現にも用いる、明治以後の用法
      1. [初出の実例]「予は果して怒り能(アタ)ふ程の価値ある男なりや」(出典:露団々(1889)〈幸田露伴〉一五)
    4. (ニ) ( 動詞に付かないで ) できる。なしうる。→あたう限り
      1. [初出の実例]「参内之次、可玉顔、諸事不一二謹言」(出典:明衡往来(11C中か)下本)
  3. なるほどと合点がゆく。理にかなう。
    1. [初出の実例]「罪の限りはてぬればかく迎ふる、翁は泣きなげく、あたはぬ事也。はや返し奉れ」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
  4. 程度、状態などによく合う。適合する。相当する。
    1. [初出の実例]「此(これ)汝が着(きる)物に不能(あたはず)」(出典:今昔物語集(1120頃か)二三)
    2. 「わが身にあたはぬ事を願ふ事なかれ」(出典:仮名草子・伊曾保物語(1639頃)中)

能うの語誌

は、漢文における「不能」「未能」等の漢字を「アタハズ」と訓じたところから生じた用法で、漢文訓読系の文献を中心として用いられた。平安時代には、通常、「(…スル)コトアタハズ」「(…スル)ニアタハズ」の形式で用いられたが、前者の方が古く、後者は新しい訓法とされる。また、後者の「(…スル)ニアタハズ」は、変体漢文、訓点資料に主として見られる訓法。なお、歌や物語などの和文では、これと同じ意味の表現として、「エ…ズ」「…アヘズ」が用いられた。


あとうあた・ふ【能】

  1. 〘 自動詞 ハ行四段活用 〙あたう(能)

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