座ったとき身体の前や脇に置き,ひじをのせて身をもたれさせる道具。《古事記》《日本書紀》には〈わきづき〉とか〈おしまづき〉として出てくる。奈良時代には挟軾(きようしよく)と呼んでおり,脇息の呼称は平安時代からである。中国では凭几(ひようき)という。脇息には几型,内湾型,箱型の3種がある。几型は凭板(もたれいた)がまっすぐでこの両端下に脚がつく。正倉院蔵の《紫檀木画挟軾》などがその例である。凭板が1m余もあり,身体の前方に置いて使う。中世になると凭板の上に布団をつけた柔脇息が生まれ,近世にはほとんどこれになった。同時に使用法も変わって身体の脇に置くようになり,凭板も幅広で短いものとなった。内湾型は凭板が内湾し三本脚がついたもので,これも身体の前に置いてもたれる。法隆寺五重塔内の維摩像にみられる。しかしこれはその後あまり使われなかったようである。以上の2種は原型が中国からもたらされたものであるが,箱型は日本で生まれ鎌倉時代ごろから使われたらしい。箱形の台の上に綿やパンヤを詰めて錦やビロードを張った蓋をのせるもので,箱には懸子(かけご)がついている。これは寄懸り(よりかかり)と呼ばれ,主として病人や出産,女性用に用いられ,室町期以降は嫁入道具の一つになった。脇息が表向きの場所で使われるのに対し,寄懸りは内向きで使われた。寄懸りが使われたのは江戸時代までで,脇息が使われたのもほぼ明治時代までであった。
執筆者:小泉 和子
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座具の一種。座ったとき、肘(ひじ)をかけ、もたれるための用具。奈良時代に挟軾(きょうしょく)といったことが『東大寺献物帳』に記載され、正倉院に伝来され、記紀に和豆岐紀(わきづき)、夾膝(おしまつき)とあり、平安中期に脇息というようになった。形式には長方形と湾曲したものとがある。前者の遺品としては正倉院と藤田美術館(大阪市)蔵の花蝶蒔絵(かちょうまきえ)挟軾(国宝)があり、『類聚雑要抄(るいじゅうぞうようしょう)』に図示され、宮廷調度として近世まで同形式が伝わる。後者のものに、石山寺(滋賀県大津市)や青竜寺(滋賀県)の木造維摩居士坐像(ゆいまこじざぞう)(重要文化財、平安時代)に用いたものや、教王護国寺(京都市)蔵の木目(もくめ)彫脇息(重要文化財、平安時代)や高山寺(京都市)蔵の脇息(鎌倉時代)などがあげられる。材質は木、竹、角、紫檀(したん)、沈香(じんこう)などを用い、加飾に蒔絵、螺鈿(らでん)を施している。用板に褥(しとね)を貼(は)ったものがあるが、近世の武家調度では、綿入れとなる。また、寄懸(よりかかり)といって箱形で、側面に引き出しを設け、甲板(こういた)を綿入れビロードで覆ったものもある。
[郷家忠臣]
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