家庭医学館 「脊柱側弯症」の解説
せきちゅうそくわんしょう【脊柱側弯症 Scoliosis】
[どんな病気か]
脊柱(せきちゅう)(背骨(せぼね))が、ねじれをともなって側方に曲がってくる病気です。側弯はいろいろな原因でおこりますが、もっとも多いのは、とくに小学校高学年から中学生にかけての子どもにみられる、原因不明の特発性側弯症です。
脊柱側弯症は、その原因によってつぎのように分類されます。
■機能性側弯(きのうせいそくわん)
姿勢が悪いためにおこるものや、ぎっくり腰などにともなう一時的な側弯で、脊柱のねじれや椎体(ついたい)の変形はみられません。
これに対し、以下に述べる病的な側弯を、構築性側弯症(こうちくせいそくわんしょう)と総称します。
■特発性側弯症(とくはつせいそくわんしょう)
成長とともに、徐々に進行するものです。脊柱側弯症全体の約70%を占め、学校健診で発見される側弯症のほとんどが、これです。
発症時期は乳児期、学童期、思春期の3つのタイプがあります。
■神経原性(しんけいげんせい)・筋原性側弯症(きんげんせいそくわんしょう)
脊髄神経(せきずいしんけい)や背筋(はいきん)のまひが原因でおこるものです。
■先天性側弯症(せんてんせいそくわんしょう)
2個以上の脊椎が癒合(ゆごう)している脊椎癒合症(せきついゆごうしょう)(コラム「脊椎癒合症/癒合椎」)や、椎体の形がくさび状にゆがんでいる楔状椎(けつじょうつい)など、先天性の変形がもとで脊柱に側弯がおこるものです。脊柱側弯症の約10%を占めており、脊髄(せきずい)が圧迫されて、下肢(かし)(脚(あし))の知覚障害、運動障害が出ることもあります。
■その他
レックリングハウゼン病や骨系統疾患によっておこる側弯症があります。
[症状]
側弯症は、一般に痛みなどの自覚症状がないため、本人は気づかず、家族や友人に両肩の高さのちがいを指摘されたり、あるいは学校健診の際に発見されることが多いようです。とくに特発性側弯症は、重症になると心臓や肺が圧迫され、さまざまな障害がおこり、治療もめんどうなものになるので、家族が子どもの体型にふだんから気をつけ、少しでも早く異常を発見することがたいせつです。
●家庭でできるチェックポイント
脊柱に側弯がおこると、肩や肩甲骨(けんこうこつ)、ウエストラインなどがゆがみ、左右の高さにちがいが出ますので、①肩の高さが左右同じかどうか、②背中側から見て、肩甲骨の高さに左右差はないか、③骨盤(こつばん)の傾きはないか(ウエストラインが水平かどうか)、④深くおじぎをしたかっこうで、肩や肩甲骨の高さに左右差は出ないか、に注意してください(図「脊柱側弯症の4つのチェックポイント」)。
[検査と診断]
整形外科を受診します。まず身長、体重の測定に始まり、前述のチェックポイントを中心に、外観上の骨格の変形を調べます。特発性側弯症では、出っぱった側の肋骨(ろっこつ)がもり上がっているのがはっきりわかります。さらに原因を明らかにするために、全身の検査が行なわれます。
皮膚にコーヒー色の色素斑(しきそはん)や結節(かたいもり上がり)があれば、レックリングハウゼン病が原因で側弯がおこったと考えられます。これは、脳神経や脊髄神経および皮膚の末梢神経(まっしょうしんけい)に腫瘍(しゅよう)が発生する遺伝性の病気で、皮膚に色素が沈着するのが特徴です。
また、臀部(でんぶ)(おしり)の中央に、毛の生えた皮膚のくぼみがあれば、脊髄(せきずい)・脊髄膜(せきずいまく)ヘルニア(脊椎披裂(せきついひれつ)/二分脊椎(にぶんせきつい))の合併が疑われます。
側弯の状態を詳しくみるために、X線検査が行なわれ、いろいろな姿勢でさまざまな角度から、頸椎(けいつい)から骨盤までを長いフィルムで撮影します。
また、コブ法という方法で、側弯の度合いがはかられ、脊柱の回旋の状態、どこまで矯正(きょうせい)が可能かなども、各種の計測によって調べられます。
このX線検査と計測は一定期間ごとに行なわれ、側弯の進行、矯正治療の効果などが時間をおって観察されます。
◎たいせつな周囲の人の気くばり
[治療]
脊柱側弯症は、躯幹(くかん)(胴体(どうたい))の支柱である背骨の変形ですから、その治療は手足の変形を矯正するほど簡単ではありません。本人はもとより家族もこの病気をよく理解し、協力し合って治療に取り組むことが、なによりもたいせつです。
●矯正
コブ法計測で20~50度の側弯症は、一般に、矯正装具をつけ、運動療法(側弯症体操)を毎日欠かさず行なうことで、曲がった脊柱を矯正します。装具による治療は、脊柱の成長が完成する17~18歳まで続けられ、3~4か月ごとに側弯の状態と装具の適合性をチェックしたり、状態に応じた側弯症体操の適応を検討しながら進められます。また、牽引(けんいん)療法やギプスなどにより、側弯の矯正と進行の防止を行なうこともあります。
●手術療法
一般に、50度以上に進んでしまった強い側弯は、手術による治療が必要になります。
手術の目的は、主として、①側弯の進行防止、②肺の機能障害が出ている場合、その悪化防止、③著しい変形に対する美容上の矯正、などです。また、腰背痛(ようはいつう)をおこしているものや、神経性の病気を合併している場合などにも、手術が行なわれることがあります。
手術は、牽引や矯正ギプスによって可能なかぎり矯正してから行なわれます。したがって、手術後の安静期間を含めると、かなり長期間(3~6か月)の入院が必要になります。
●治療上たいせつなこと
脊柱側弯症の治療は、たいへん根気のいるものです。とくに脊柱の成長が完成する17~18歳ごろまで、定期的に経過をチェックしながら進める治療であることを、本人と家族は十分に理解することがたいせつです。途中で病院を転々とかえてしまっては、正しい治療は受けられません。
なにごとも担当医によく相談してください。毎日行なう体操もたいせつな治療の一環なので、理学療法士の指導のもとに、欠かさず続けましょう。
また、感受性の強い時期に矯正装具をつけたまま日常生活をするわけですから、周囲の理解と心くばりは、とりわけたいせつです。
脊柱側弯症の治療の成否は、信頼できる整形外科医、装具メーカー、理学療法士と、本人、家族の協力にかかっているといえるでしょう。