家庭医学館 の解説
じんえんをわずらったひとのにんしんしゅっさん【腎炎を患った人の妊娠、出産】
妊娠は腎臓(じんぞう)に大きな負担になります。ふつうの人でも、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)になったり、むくみ、高血圧、たんぱく尿が出ることがあります。妊娠前から腎臓が悪い場合、妊娠が引き金になって病気が悪化することもあります。ただし専門医の指導のもと、病気の種類と腎臓の機能をきちんとつかんでいれば、妊娠・出産が不可能というわけではありません。
●腎炎症候群の種類からみた可能性
■急性腎炎症候群(きゅうせいじんえんしょうこうぐん) たんぱく尿や血尿(けつにょう)が消えてから12か月以上たっていれば、妊娠・出産にさしつかえはありません。
■無症候性(むしょうこうせい)たんぱく尿(にょう)・血尿症候群(けつにょうしょうこうぐん) たんぱく尿や血尿、あるいはその両方が続いてみられ、むくみや高血圧などの症状がなく、腎臓のはたらきも正常な症候群ですが、このタイプなら妊娠・出産に問題はありません。
■慢性腎炎症候群(まんせいじんえんしょうこうぐん) 腎臓のはたらきが正常なら妊娠しても大丈夫ですし、軽い障害にとどまっている場合も妊娠してかまいません。
しかし、たんぱく尿が多い場合(1日に2g以上のたんぱく質が出る)や、高血圧(拡張期の血圧が水銀柱で95mm以上)をともなう場合は、注意が必要です。検査で腎臓の機能が中等度以下に低下しているとわかったときは、妊娠は避けるべきです。
■ネフローゼ症候群 ネフローゼ症候群が完全に治り、治療中止後6か月たっても再発しない場合、妊娠してかまいません。
軽いたんぱく尿だけが残っているという場合は、検査で腎臓の機能が正常で、治療中止後6か月以上状態が安定していれば、妊娠してもかまいません。それ以外は妊娠は勧められません。
■急速進行性腎炎症候群(きゅうそくしんこうせいじんえんしょうこうぐん) 悪化していくことが多く、妊娠は避けるべきです。
●糸球体(しきゅうたい)の組織病型からみた可能性
妊娠してよいかどうかは、糸球体の組織の病変で分類される病気のタイプ(組織病型)からも考える必要があります。
微小変化型および膜性腎症(まくせいじんしょう)では、どの症候群が現われているかによって検討します。巣状糸球体硬化症(そうじょうしきゅうたいこうかしょう)、膜性増殖性糸球体腎炎(まくせいぞうしょくせいしきゅうたいじんえん)、IgA腎症(アイジーエーじんしょう)では、どの症候群が現われているかだけでなく、組織障害の程度も参考にします。
●糖尿病性腎症の人の妊娠・出産
糖尿病性腎症の表(表「糖尿病性腎症の病期分類」)に病期の分類を示してありますが、それにそって検討します。第2期までは、妊娠してもかまいません。第3期のAでは、病態や経過によって慎重に判断しなければなりません。第3期のB以降の病期では妊娠は勧められません。
●ループス腎炎の人の妊娠・出産
腎臓の機能検査と、副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン(ステロイド)の使用量を参考にして検討します。腎臓の機能検査の値が、正常あるいは軽い低下という人で、副腎皮質ホルモンの使用量が1日に10mg以下でおさまっているという場合は、妊娠してもかまいません。
全身性エリテマトーデスでは、ループスアンチコアグラントや抗リン脂質抗体という血液が固まりやすくなる物質が血液中にみられることがあり、このような場合は、流産(りゅうざん)や早産(そうざん)になってしまうことがあります。
●人工透析(じんこうとうせき)を受けている人の妊娠・出産
透析療法を受けている患者さんが妊娠すると、その約50%が自然に流産してしまいます。また胎児(たいじ)の発育も悪い場合が多く、原則として妊娠は避けるべきです。