腎細胞がん(読み)じんさいぼうがん(その他表記)Renal Cell Carcinoma

家庭医学館 「腎細胞がん」の解説

じんさいぼうがん【腎細胞がん Renal Cell Carcinoma】

[どんな病気か]
 腎臓(じんぞう)は、血液濾過(ろか)して尿をつくり出すはたらきをしています(「腎臓のしくみとはたらき」)。
 おとなの場合、腎臓の大きさは握りこぶしくらいで、ちょうどみぞおち両側、それも背中に近い奥の位置に、左右1個ずつあります。肋骨(ろっこつ)で囲まれていて、ふつうは、からだの外から触れることはできません。
 腎細胞がんは、腎臓で尿のもとになるもの(原尿(げんにょう))が最初に流れ出てくる尿細管(にょうさいかん)という部分が、がん化して腫瘍(しゅよう)になったもので、左右どちらの腎臓にも同じ程度に発生します。
 腎臓にできる腫瘍のうち、約80%がこの腎細胞がんであり、その約3分の2は男性に発症します。
 ほとんどは、50歳以降に発症しますが、30歳代や、ときには20歳代でもみられます。ごくまれですが、子どもに発症することもあります。
[症状]
 腎臓は、もともとからだの奥深いところにあるので、かなり腫瘍が大きくならないと、症状が現われません。
 腎臓は、尿をつくる臓器なので、がんの進行にともなって、血尿(けつにょう)が出ることがあります。顕微鏡で見ないとわからない血尿から、コーヒー色の血尿、新鮮な赤い血尿まで、程度はさまざまです。
 とくに早期診断につながる初期症状はなかなか出てきませんが、ときに、不明熱(感染・炎症など明らかな原因をともなわない発熱)や、体重減少が症状として現われることもあります。
 昔から血尿、患部の痛み、患部のしこりを触れるといったことが、腎細胞がんの特徴とされてきました。しかし最近では、こうした自覚症状が出てから病院を訪れる人は少なくなってきました。健康診断や、ほかの病気で腹部を検査しているときに、腎臓に腫瘍が見つかるケースが増えてきているからです。
 最近では、腎細胞がん全体の半数以上が、偶然に見つかったがん(偶発(ぐうはつ)がん)で占められています。こうした偶発がんの腫瘍は小さく、手術後の経過も順調です。
 放置すると、肺、肝臓、リンパ節、骨などに転移します。
[検査と診断]
 問診、視診、触診検尿、血液検査などの一般的な検査のほか、超音波やCTなどによる画像診断が行なわれます。画像診断では、腎臓に特徴のある腫瘍像がみられるので、腎細胞がんの診断は比較的容易につきます。
 いちばん手軽に行なえるのは超音波検査で、偶発がんの約70%が見つかっています。
 偶発がんの大きさは、平均で直径約5cmですが、最近では、1cmくらいのものなら、発見可能になっています。
 4cmまでの腫瘍を、手術の都合上、小腫瘍と呼んでいますが、こうした小腫瘍の割合が増えている一方、なかなか症状が現われないため、依然として、かなり症状の進んだ例もみられます。
 したがって、定期的な健康診断は、この病気の場合、早期発見にとても役立っています。
●受診する科
 最近では、内科や検診センターで病気がわかることが多くなっています。治療の基本は手術なので、泌尿器科(ひにょうきか)を紹介してもらい、受診しましょう。
[治療]
 腎細胞がんでは、腫瘍を薬や放射線で消失させることはできません。したがって、手術が治療の第1原則となります。
 ふつうは、腫瘍ができたほうの腎臓を、周囲の脂肪組織といっしょに取り去る手術を行ないます。この場合、通常は、上腹部の皮膚を横か縦に切開して、腎臓に到達します。
 手術の後は、切開部にチューブを数日入れておかなければなりません。手術後、一時的に体内にたまる血液やリンパ液をからだの外に出すためです。翌日から歩行も可能です。約1か月の入院が必要です。
 腎臓は1個になってしまいますが、もともと腎臓に内科的病気がなければ、残った腎臓が十分にはたらくので、日常生活は心配なく送れます。
 小腫瘍(4cm以下の腫瘍)の場合、手術が技術的に困難でなければ、腎臓をすべて取らなくてもよい手術法もあります。
 これは、比較的最近のがんに対する取り組みの1つで、腎部分切除術(じんぶぶんせつじょじゅつ)あるいは腫瘍核出術(しゅようかくしゅつじゅつ)といわれ、腫瘍部分だけを切除し、問題のない部分は残すという手術法です。
 この場合は、ふつう、わき腹を切開して腎臓に到達します。術後3日くらいは安静が必要ですが、入院期間は約1か月ですみます。
 この方法は、手術自体がからだに与える負担が少ないので、腎臓の両側に腫瘍があったり、残るほうの腎臓のはたらきに問題があったりする場合に、とくに有用です。
 ただし、よいことずくめではありません。少数ながら、約5%の人に再発がみられることがあるので、治療法を選ぶ際には慎重な姿勢が必要です。
 いずれにしても、手術を受ける場合は、主治医から手術方法・内容について、納得のいくまで説明を受け、他人まかせではなく自分の問題として、よく病状を理解しておくことがたいせつです。
 一般に、この病気にはよく効く抗がん剤がありませんので、転移がみられたら、肺や骨の転移巣は手術して切除することがあります。手術ができない部位に転移した場合には、放射線を照射する療法も試みられます。
 また、一部の患者さんには、インターフェロンといった免疫治療薬(めんえきちりょうやく)が有効なことがあり、外来で通院して、自分で免疫治療薬の注射を続けている患者さんもいます。
 腎細胞がんでは、早期発見・手術治療がもっともたいせつです。発見が早期であれば、完全に治すことができる病気です。
[予後]
 転移がみられない患者さんの術後の経過はよく、5年後まで生存する割合(5年生存率)は約80%と、よい結果が得られています。
 しかし、腫瘍がかなり大きかったり、転移がみられた場合、患者さんの術後の経過は悪く、5年生存率は30%前後です。
 一方、術後5年、ときには10年を過ぎて転移がおこったり、転移がおこってからも、数年~5年以上生存する例があり、これも腎細胞がんの特徴の1つといえます。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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