最新 心理学事典 「自己意識感情」の解説
じこいしきかんじょう
自己意識感情
self-conscious emotion(英),moi conscient e´motion(仏),Selbstbewusstsein Emotion(独)
トレイシーTracy,J.L.とロビンRobin,R.W.(2004)によれば,自己意識感情は以下の5点において,基本情動fundamental emotionsとは異なる。⑴自己関与:たとえば,競馬の馬券で高配当を得て大喜びをしている場合は幸せ(幸福)happy(基本情動の一つ)といえるが,過去のデータを緻密に分析し,その結果に基づき購入した場合は誇りを感じるであろう。後者は,そのような努力をした自分自身を意識し,その行為を評価することによって生じた自己意識感情といえる。⑵出現時期:基本感情は出生直後から生後9ヵ月までの期間に出現するとみなされているが,自己意識感情はその初期形態のものであっても生後18~24ヵ月になって初めて出現する。自己意識感情の全体が出現するまでには,生後3年が必要と考えられている。この時期は,自己覚知,自己表象,自己認識(自己鏡像の認識),自己言及(自らを「ぼく」,「わたし」と言う)の能力が獲得される時期でもある。⑶社会への適応機能:基本情動が主に個体の生存,種の存続に機能しているのに対して,自己意識感情はもっぱら社会への適応に機能している。たとえば恥や罪悪感は,他者からの許し,共感を喚起させ,誇りは自らの社会的地位を向上させることに効果をもつ。しかし,他者や社会からの注目や評価を過度に意識することによって,不適応を生じさせることもある。⑷顔面表情:自己意識感情は,基本感情と比較して,明確な顔面表情をもたず,また通文化的特徴をもたない。たとえば日本人は,恥,罪悪感を感じて微笑(にが笑い)を示すことがある。その表情を社会に対する挑戦的態度(嘲笑)と誤解する欧米人もいる。自己意識感情は,総じて顔面表情よりも身体的動作(ジェスチャー)によって表出される。⑸複雑な認知評価:自己意識感情を喚起させる事象は,アイデンティティidentityや理想的自己表象と関連づけて評価される。たとえば,ルイスLewis,M.は,なんらかの行動の成功・失敗の評価を,自己存在の全体に帰属すると認知するか,自己の限定的な行動に帰属すると認知するかによって,異なった自己意識評価感情(思い上がりhubris,恥,誇り,罪悪感)が出現すると論じた。
自己意識感情の文化間変動は大きい。たとえば恥は,欧米社会においては,全人的な否定感を伴うネガティブな感情と受け取られることが多いが,日本人の場合は必ずしもそうではない。罪悪感,誇りに関しても同様な文化的差異が見られる。これらは,文化がその構成員をして,社会のどのような側面に焦点を当てて評価を行なうべきか,さらに感情表出のあり方はどうあるべきかを規定しているためである。しかしこのことは,必ずしも自己意識感情の中核部分における通文化性,普遍性を否定するものではない。 →共感 →自己 →社会的自己 →表情
〔今田 純雄〕
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