文化人類学の用語。他民族の生活様式・思考法・行動などに関して,自文化の慣行・規範にもとづき否定的な価値判断をくだす態度をいう。あらゆる人間は特定の文化の中で生まれ成長し,その文化の価値体系を正当かつ自然なものと考えるようになるから,他民族のもつ異文化に直面すると,それを不自然,不合理,まちがったものとみなしやすい。こうした態度は程度の差はあれ,すべての民族にみられる。20世紀初頭までの異文化に関する報告(民族誌)は,多くの場合,自文化中心の偏見からまぬがれえなかった。現代の人類学者たちは,過去の研究態度への反省から,その調査報告と分析の中に意識的・無意識的に自民族中心主義からくる偏見が入りこまないよう警戒するとともに,各文化の価値と規範は独自の存在理由と正当性をもち,それを異文化評価の基準にしてはならないという,いわゆる〈文化の相対主義cultural relativism〉に立っている。
執筆者:松園 万亀雄
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[愛国心の心的原型]
愛国心の原型は,自分がその中に生まれ育ち,言語や習俗を共有する,情緒的一体感で結ばれた共同体を〈内集団〉として認識し,他の集団を自分たちとは異質な〈外集団〉として区別する意識の働きにある。この〈内集団〉意識が,郷土愛やお国自慢のみならず,歴史の状況の中で自民族中心主義ethnocentrismや国粋主義すら生む。しかしながら,今日見るような愛国心が歴史の舞台に登場するのは近代国家成立以降のことである。…
…現代の文化(社会)人類学者の多くはこの立場を支持する。これと対照的な見方は,自分の所属する民族の観点から他の民族の価値観,文化一般のことをとらえる自民族中心主義ethnocentrismである。なお,〈多文化主義〉(文化多元主義)についてはその項を参照。…
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[愛国心の心的原型]
愛国心の原型は,自分がその中に生まれ育ち,言語や習俗を共有する,情緒的一体感で結ばれた共同体を〈内集団〉として認識し,他の集団を自分たちとは異質な〈外集団〉として区別する意識の働きにある。この〈内集団〉意識が,郷土愛やお国自慢のみならず,歴史の状況の中で自民族中心主義ethnocentrismや国粋主義すら生む。しかしながら,今日見るような愛国心が歴史の舞台に登場するのは近代国家成立以降のことである。…
…なぜなら市民が関係を取り結ぶ他の集団(たとえば外国)は,もはや非合理的な情緒の投射枠としての幻想的な〈外集団〉(異国)でなく,利害と役割の関係の中におかれ,客観的・経験的に認知し判断できる明確な〈他集団〉(他国)でなければならないからである。しかしながら近代社会は,国民国家に編成される過程で,愛国心とナショナリズムに訴え,再びエスノセントリズム(自民族中心主義)と排外主義を,今度は民族的な規模で呼び起こした。政治権力と支配層とは,しばしば社会的矛盾の噴出や対内的な危機を回避するために,それらを外へ転化して,大衆の愛国心やナショナリズムを排外主義に移し替えていく。…
…現代の文化(社会)人類学者の多くはこの立場を支持する。これと対照的な見方は,自分の所属する民族の観点から他の民族の価値観,文化一般のことをとらえる自民族中心主義ethnocentrismである。なお,〈多文化主義〉(文化多元主義)についてはその項を参照。…
…かつてはcultural pluralismと呼ばれることが多かった文化的多元主義が,最近ではmulticulturalism(多文化主義)と呼ばれているのは,こうした変化に対応している。ただ,各エスニック・グループの本質的平等の主張は,過度に強調されると,それぞれの集団の民族性を必要以上に賛美する自民族中心主義(エスノセントリズム)に転化する危険性もある。実際,PC運動に含まれる民族中心主義は,しばしば民族狂信主義に転化しており,急進主義に伴いやすい不寛容とあいまって,PC運動が学問の自由や言論の自由の脅威になっていることも否定できない。…
※「自民族中心主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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