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舞台化粧 ぶたいげしょう

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

舞台化粧
ぶたいげしょう

舞台の出演者が顔をはじめ手、足、身体にする化粧。役柄に扮(ふん)するためにする化粧と、出演者自身をアピールさせるための化粧、また記号として個性を消すためとか人間以外のものになるための化粧もある。シアトリカル・メイクアップtheatrical make-up、単にメイクアップ(メーキャップ)ともいう。かつら(鬘)や仮面も舞台化粧の範疇(はんちゅう)に入る。舞台芸術を構成する一要素であり、観客の視覚に訴えることから大きくは舞台美術に含まれるが、とくに舞台衣装との関連が深い。
 太古から人間は美しくなりたいためだけでなく、種々な意味で化粧をしてきた。すなわち変身願望、宗教的護符、呪術(じゅじゅつ)、性的誇示、種族や階級の印(しるし)、罪の印など、民族や歴史的にもさまざまな意味があった。それらは演劇の始原にもつながっている。
 日本の伝統演劇についていえば、現世の庶民を演じる狂言では基本的に面をつけず、地顔・地髪のままで舞台に立ち、能や舞楽では面をつけることで変身する。演劇が劇場の中に入り、人工の照明を使うようになってから、舞台化粧がくふうされるようになった。歌舞伎(かぶき)の「隈取(くまどり)」はわが国独得の象徴化した化粧で、感情高潮に伴い筋肉が動き血管が浮き出るさまを表現したものとされている。初世市川団十郎が得意芸の荒事(あらごと)で創始し、のち洗練を加え、顔のほか手・足・胸・腹部に及ぶ化粧をした。面明(つらあか)り(燭台(しょくだい)を差し出して本人を浮かび上がらせる照明)と相まっておもしろい効果をあげた。中国演劇の化粧「臉譜(れんぷ)」から暗示を得たという。日本化粧の場合は色数が少なく、白、紅、墨、代赭(たいしゃ)(茶系)、青墨が基本色で、水で溶いて用いる。まず顔、首に鬢(びん)つけ油の柔らかいものをまんべんなく塗り、その上に水で溶いた顔料を刷毛(はけ)で塗り、紅や墨で目・鼻・眉(まゆ)・口を画いていく。歌舞伎役者は顔作りを自分自身でやるが、日本舞踊などでは専門の顔師がいる。
 西欧における舞台化粧は、写実的かつ具体的な方法で、演者が役柄によってよりキャラクターを強調し、立体感を出すためにする。18世紀に油性の化粧品が使われるようになったが、これは色数が多く、写実的な化粧に効果があり、使用法も容易である。付けまつげ、付け眉、付け鼻も使用され、より自然に変身してみえる化粧方法をする。材料には各色のドーラン、チョーク、パンケーキ、各色パウダー、金銀粉、ラメ粉、パール粉などがある。メイクアップはかつらとともにあるもので、額の型やひげ、ヘアスタイルも重要な舞台化粧の要素である。欧米では劇場付きのメイクアップ師がいるところが多く、トータルな舞台美術の一環として存在している。また現代の欧米では、日本など東洋の象徴的な舞台化粧が、仮面などとともに評価されてもいる。
 現在の日本の演劇では上演されるものによって、水化粧、油化粧のどちらも使われている。さらに特殊メイクとして、柔らかいウレタンのマスクをぴったりと顔にあわせて張り、本人以外の顔で表情をつくることもできる。[緒方規矩子]
『リフシツ他著、小沢政雄訳『メーキァップの技術』(1954・未来社・てすぴす叢書) ▽賀原夏子著『賀原夏子のメークアップ入門』(1983・レクラム社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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