改訂新版 世界大百科事典 「航空運送事業」の意味・わかりやすい解説
航空運送事業 (こうくううんそうじぎょう)
航空機を使用して有償で旅客,貨物を運送する事業。国際間の航空路上で貨客の運送を行う事業を国際航空運送事業,国内での場合を国内航空運送事業という。また,路線とそれを運航する日時が定まっているか否かにより,定期航空運送事業と不定期航空運送事業に分かれる。定期,不定期を合わせ,旅客,貨物の運送を行うのが一般的であるが,とくにアメリカなどで旅客または貨物だけに限って運送を行う会社がある。日本でも貨物専門会社が1983年に設立された。
国際航空運送事業はアメリカを除き,その性格から国営または国策会社として1国1社,またはスカンジナビア航空のようにいくつかの国で1社をつくり運営される場合が多い。国際航空運送事業を設立するときは,当事国が国際民間航空条約ならびに同条約に基づく一連の条約,協定を締結し,ICAO(イカオ)の加盟国となり,それらの条約,協定を背景とした国内法を制定し,さらに相手国との間に2国間航空協定を締結しなければならない。またIATA(イアタ)に加盟するのが一般的である。同一国内の空港間での外国機による商業運送(カボタージュcabotage)は禁止され,適用する運賃,料金は各国の運輸大臣の許可が必要となる。国内航空の場合もほぼ同様であり,日本を例にとると,事業の設立には運輸大臣の免許を要し,運賃,料金も運輸大臣の認可制で,運輸審議会への諮問が必要となり,〈航空法〉による規制をうける。事業の名義使用や貸渡しが禁止され,譲渡する場合も運輸大臣の認可が必要となる。
航空運送事業も他の公共交通機関と同様,その特性として,高速,定時,安全,快適,廉価,応需体制の整備が要求される。とくに航空運送は陸上,海上の交通機関と異なり,技術革新によるスピードと大型化が急であり,その結果,国際旅客運送の面では従来の海上運送にとって代わることとなった。また,大型化による大量輸送方式の定着,低運賃の導入により,観光客を中心とする新規需要が大量に開発されたが,近年の燃油の高騰,景気後退による需要の低迷が企業経営を困難にしている。航空運送事業は航空機の購入等,事業の運営上多額の資金を必要とするとともに,運送の基盤となる空港や航行援助,航空保安施設などの整備が事業遂行の前提条件となる。とくに日本の場合,国際・国内航空需要の急増に対し,空港整備が立ち遅れたため,事業の円滑な運営に支障をきたしており,また,空港建設のための利用者負担による公租公課も急増している。したがって,日本に関するかぎり投資の重複を避け,公正な競争と適正な事業分野の設定を前提に,企業の参入,撤退,合併を中心に行われてきた産業秩序政策を柱とする従来の航空行政指導に加え,空港整備,環境対策を重点とする施設整備政策の強化が行われることが望まれる。
→航空運賃 →航空貨物 →国際航空 →国内航空
執筆者:津崎 武司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報