鉄道で輸送される貨物の集配,積卸し,取次ぎを行う事業について1990年まで用いられていた名称。鉄道貨物輸送は,線路上の鉄道輸送そのものと,その両端の貨物駅と荷主との間を結ぶ通運とから成立しており,これら両者が結合することによって,はじめて発荷主から着荷主の間における一貫輸送が行える。通運事業はその公共性のゆえに通運事業法(1949公布,1950施行)によって,事業への参入,離脱,運賃,料金などさまざまな面で規制を受けてきた。通運事業を細分すると,(1)貨物の貨車への積込み,取卸しを行う貨車積卸業,(2)発荷主から発駅までの集貨,着駅から着荷主までの配達を行う鉄道集配業,(3)鉄道により輸送される貨物の取扱い,および引受けなどを行う通運取扱業,(4)通運代弁業,(5)鉄道利用業,の5業種があった。現在の鉄道貨物の輸送形態には,一列車を貸し切って輸送する専用輸送,貨車一車を貸し切って輸送する車扱輸送,コンテナー(5tまたは10t)を輸送するコンテナー扱輸送,少量小口貨物を輸送する荷物扱輸送などがあるが,これら各扱輸送に対応して,通運事業は上記の五つの業種のすべて,あるいは一部をとり行ってきた。
鉄道貨物輸送はかつて〈陸の王者〉といわれ,鉄道の長い歴史とともに陸上輸送の中心的存在としての地位を保ち続け,その補完機能を果たす通運事業の社会的役割も大きかった。しかし第2次大戦後のモータリゼーションの進行はトラック輸送を拡大させ,鉄道輸送を縮小させる方向に働き,いまや鉄道輸送は陸上貨物輸送における二次的地位を占めるにすぎなくなった。それに対応して,通運事業の社会的役割はひじょうに低下してきた。1990年から施行された貨物運送取扱事業法により通運事業法は廃止され,従来の通運事業は海上運送取扱等,利用航空運送事業などとともに現在では貨物運送取扱事業となった。そのなかには,第1種利用運送事業,第2種利用運送事業,運送取次事業の区分がある。現在,日本通運をはじめ,通運という名称を付した企業が数多くあるが,いずれの企業でも鉄道貨物の取扱いの占める比重は相当小さくなっており,なかにはまったく行っていない企業もある。こうした場合の通運という名称は,貨物運送企業としての伝統の古さを表現しているにすぎない。いずれの企業も,トラック輸送業,港運業,倉庫業をはじめ,貨物輸送に関連する他の諸業種への営業拡大をすでに行っており,事実上,総合運送取扱業者,総合物流業者へと脱皮してしまっている。なお,鉄道貨物輸送のなかでも比較的新しい輸送サービス部門であるコンテナー扱輸送,まったく新しい輸送サービス部門である高速の拠点間直行輸送は安定的に推移している。これにかかわる事業は,総合運送取扱業者,総合物流業者となった旧通運企業にとってトラック,船舶,航空とともに,多様化する荷主の需要に応ずるための重要な分野となっている。
執筆者:野村 宏
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