日本大百科全書(ニッポニカ) 「船主責任制限法」の意味・わかりやすい解説
船主責任制限法
せんしゅせきにんせいげんほう
海運業の保護奨励のために、船主等の有限責任を定めた法律。昭和50年法律第94号。1957年(昭和32)の「海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約」を国内法化したものであるが、「千九百七十六年の海事債権についての責任の制限に関する条約」を批准し、この条約に基づいて82年に本法が改正され、84年から、76年条約の発効に先だって施行されている。正式の法律名は、「船舶の所有者等の責任の制限に関する法律」。本来、船舶所有者は、船長その他の船員に対する選任監督につき過失の有無を問わず、それらの者が職務を行うにあたり故意・過失によって他人に加えた損害を賠償する責任がある(商法690条)反面、本法によって船舶所有者の責任は制限されている。責任制限をなしうる主体は、従来、「船舶所有者等」「船長等」としていたが(3条・2条2号・同条3号)、改正法は「救助者」および「被用者等」(船長等を含む)を追加した(3条・2条2号の2・同条3号)。船舶所有者等や被用者等が責任制限できる債権は、人の生命・身体または物の物理的な損害、運送品・旅客等の遅延損害、船舶の運航に直接関連して生ずる権利侵害(漁業権や営業権など)による損害等に基づく債権などである(3条1項)が、救助者や被用者等が責任制限できる債権の範囲についても法定している(同条2項)。しかし、船舶所有者等が責任制限できない事由として、本法は、自己の故意により、または損害の発生のおそれを認識しながらなした無謀な行為によって生じた損害に関するもの(同条3項)のほか、内航船の船主等に対する人的損害に関する債権(同条4項)、海難救助や共同海損の分担に基づく債権(4条1号)、雇用契約に基づく債権(同条2号)などをあげている。また、責任限度額については、旧来の委付主義を廃して金額主義を採用したが、改正前には、責任制限の対象となる債権が物的損害に関する場合は一単位(金価値単位)の1000倍に船舶のトン数を乗じて得た金額、その他の場合は一単位の3100倍に船舶のトン数を乗じて得た金額をそれぞれ責任限度額とする方式を採用していた。しかし、改正法(7条)では、従来のトン数比例方式を採用しながらも一種の逓減(ていげん)方式を認めるほか、責任限度額を表示する基準単位として、いわゆるSDR方式(国際通貨基金(IMF)の特別引出権)を採用し(2条1項7号)、あわせて、旅客の損害についての責任制限に関し、一般の場合とは別建ての責任限度額による責任制限基金を形成すべきものとして被害者の保護を図っている。なお、本法は責任制限に関する詳細な手続規定も置いている(9条~94条)。
[戸田修三]
『稲葉威雄・寺田逸郎著『新法解説叢書9 船舶の所有者等の責任の制限に関する法律の解説』(1989・法曹会)』▽『山田泰彦著『船主責任制限の法理』(1992・成文堂)』