船幽霊(読み)フナユウレイ

デジタル大辞泉 「船幽霊」の意味・読み・例文・類語

ふな‐ゆうれい〔‐イウレイ〕【船幽霊】

海上に現れるという、水死した人の亡霊船人柄杓ひしゃくを要求するが、底を抜いて貸さないとその柄杓で水をかけられて船を沈められるという。
死水しすい3によって船足がおそくなる現象。ひき幽霊。

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精選版 日本国語大辞典 「船幽霊」の意味・読み・例文・類語

ふな‐ゆうれい‥イウレイ【船幽霊】

  1. 〘 名詞 〙 磯や海上に出るという水死した人の亡霊。柄杓を貸せと要求するが、その底をぬいて貸さないと柄杓で水を掛けられて沈められるという。船亡霊。
    1. [初出の実例]「海上の風荒く浪はげしき折からは、必ず波のうへに火の見え、又は人形などの現はれはべるをば、舟幽霊(フナイウレイ)と申しならはせり」(出典:仮名草子・百物語評判(1686)四)

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改訂新版 世界大百科事典 「船幽霊」の意味・わかりやすい解説

船幽霊 (ふなゆうれい)

海上で遭難した人の亡霊が幽霊船(幻の船)に乗って,漁師などこの世の人に働きかけるという霊異現象。死後子孫にまつられず海上をさまよう死霊の信仰が根底にあって,危険な海で生活する者にこうした幻覚を起こさせたものと思われる。船幽霊は,灘幽霊磯幽霊,海幽霊のほか,迷い船,ヨイヨイ船,亡者船亡霊船など船の名で呼ばれる。これは船に乗って現れるものが多いからで,ときには船にまとわりついてはなれない怪火を船幽霊ということもある。船幽霊には,闇夜でもよく見える,避けようとすると害を受ける,ひしゃく(柄杓)を貸せというなどの共通点がある。また帆の前にともすべき灯火が後ろにあったり,風に迷って走るとか,盆のころによく出会うともいう。

 このように,船幽霊には普通の船と異なった点がいろいろあり,船幽霊をさける方法やこれの見分け方も伝えられている。とくに,ひしゃくを貸してくれといわれたときには,底を抜いてから与えないと船に水を入れられて沈没するという。船幽霊に出会ったら,握飯や精霊船に供えただんごをたむけると消えるとか,髪の毛や魚をこがす,船たでに用いた火箸でなでるとよいなどという。また,ときに船幽霊たちはおおぜいで船べりに顎をかけ,仲間に入れと誘いにくること(トモヨビという)があるといい,このようなときにかまどの灰をまくと逃げていくという。船幽霊は草履の紐を眼鏡にして見るとか,袖の下から見ると判別できるなどともいう。
幽霊船
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「船幽霊」の意味・わかりやすい解説

船幽霊
ふなゆうれい

海上に出るといわれる妖怪(ようかい)。幽霊船、亡霊(もうれい)船、迷い船、亡者船、よいよい船などともいう。暗闇(くらやみ)のなかを船で沖へ出ると、前方から灯(あかり)をつけた船がまっすぐに向かってくる。あわや衝突という場面で消えてしまうという。船幽霊だと感じたら、よけてはいけない。そのまま突き進めば消えるものだともいう。幽霊船は帆船でも風に逆らって走るとか、暗闇のなかから掛け声が聞こえるとか、こちらの船と競走することがあり、これに負けるとこちらが沈没するなどという。全国の沿海地方で経験談として語られている話である。類似のものにシキ幽霊がある。これは、夜に沖へ出て、海中がボーッと光る現象である。現在ではプランクトンによるものだということが明らかになっているが、海上での不安な心情が幻覚をよび、怪異現象ととらえた点では船幽霊とも共通している。別に産女(うぶめ)系統の妖怪に磯女(いそおんな)というのがあり、柄杓(ひしゃく)で海水を船に汲(く)み入れて船を沈めるという。いずれにしても海上の怪異にあったら、米や灰をまくと退散するという。なお船足が著しく遅くなる現象(死水現象)を船幽霊ということもある。

[井之口章次]

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百科事典マイペディア 「船幽霊」の意味・わかりやすい解説

船幽霊【ふなゆうれい】

幽霊船,亡者(もうじゃ)船とも。日本では海で水死した者が化けたといわれる幻想の船。杓子を要求され,拒むと沈められると伝える。風にさからって走り,灯が海面に映らないなどという。西洋ではさまよえるオランダ人の伝説が有名で,ハイネ,ワーグナーの作品にもとり上げられている。
→関連項目妖怪

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「船幽霊」の意味・わかりやすい解説

船幽霊
ふなゆうれい

幽霊船,亡霊船ともいう。海上生活者の間に語り伝えられている霊異現象の一つ。世界の海洋国に広く存在する俗信で,海上遭難者の亡霊が幻の船で現世の者に働きかけてくると信じられている。船幽霊に遭遇した際には,飯を投じると消えるとか,杓子を所望されたら底を抜いて貸さないと水船にされるとかいう俗信もある。

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デジタル大辞泉プラス 「船幽霊」の解説

船幽霊(ふなゆうれい)

日本の妖怪。水難事故の死者の霊で、船を沈没させ、生者を仲間に引き込もうとするとされる。人の姿で現れるもの、船そのものの形で現れるもの、怪火・怪音などの怪現象として現れるのなど、全国各地にさまざまな伝承が残る。「舟幽霊」とも。

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