さまよえるオランダ人(読み)さまよえるおらんだじん(英語表記)Der Fliegende Holländer

日本大百科全書(ニッポニカ) 「さまよえるオランダ人」の意味・わかりやすい解説

さまよえるオランダ人
さまよえるおらんだじん
Der Fliegende Holländer

ワーグナー作曲のオペラ北欧幽霊船伝説に基づく自作の台本による。1843年ドレスデン初演。三幕物であるが、今日では当初の構想どおり、休憩なしの一幕形態で上演されることが多い。後の楽劇とは異なり当時の慣習に従ってアリア重唱合唱などが分離・独立した「番号付きオペラ」の形式をとっているが、レチタティーボ風の旋律構成や示導動機の活用など、彼独自の作風もすでに明確な形で現れている。また、神を畏(おそ)れぬことばを吐いたために永遠に海の上をさまよう運命となったオランダ人が、一女性ゼンタの犠牲的な死によって救済されるという筋書きも、『タンホイザー』など以下の作品と共通するワーグナーの根本思想を反映したものである。その意味でも、この作品を彼の創作活動の実質的な出発点とみることができよう。なおドレスデン初演は不評であったが、しだいにドラマの内面性が理解され、19世紀末までに上演回数は200を超えた。

[三宅幸夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「さまよえるオランダ人」の意味・わかりやすい解説

さまよえるオランダ人
さまよえるオランダじん
Flying Dutchman; Der fliegende Hollander

北欧伝説の幽霊船,またはそのオランダ人船長。嵐のとき喜望峰の沖に現れて,船乗りに災いをもたらすと信じられた。最も一般的な言い伝えによれば,船長ファンデルデッケンが嵐のなかで涜神的な誓言を吐いたため,その船は世の終りまで岬のまわりをさまようとされる。またドイツで行われている伝説では,船は舵輪舵手もないまま北海を永遠にさまよい,船長は悪魔と魂を賭けてさいころをもてあそぶとなっている。これまで多くの文学作品に取上げられ (キャプテン・マリアットの『幻の船』など) ,ワーグナーの楽劇 (1843) でも知られる。

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