ワーグナー作曲のオペラ。北欧の幽霊船伝説に基づく自作の台本による。1843年ドレスデン初演。三幕物であるが、今日では当初の構想どおり、休憩なしの一幕形態で上演されることが多い。後の楽劇とは異なり当時の慣習に従ってアリア、重唱、合唱などが分離・独立した「番号付きオペラ」の形式をとっているが、レチタティーボ風の旋律構成や示導動機の活用など、彼独自の作風もすでに明確な形で現れている。また、神を畏(おそ)れぬことばを吐いたために永遠に海の上をさまよう運命となったオランダ人が、一女性ゼンタの犠牲的な死によって救済されるという筋書きも、『タンホイザー』など以下の作品と共通するワーグナーの根本思想を反映したものである。その意味でも、この作品を彼の創作活動の実質的な出発点とみることができよう。なおドレスデン初演は不評であったが、しだいにドラマの内面性が理解され、19世紀末までに上演回数は200を超えた。
[三宅幸夫]
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…これらの伝説は,疫病等の発生した船が世界の港から締めだされる事情から生じたものらしい。W.R.ワーグナーの楽劇《さまよえるオランダ人》(1841),コールリジの《老水夫行》,マリヤットの《幽霊船》(1839)等の作品は,この伝説に想を得ている。【荒俣 宏】。…
…1840年に完成したこのオペラはフランスのグランド・オペラの様式で書かれ,マイヤーベーアやスポンティーニの影響がみられる。この上演が大成功だったので,この町に移住,宮廷歌劇場指揮者となって,41年に書きあげていた《さまよえるオランダ人Der fliegende Holländer》を自らの指揮で初演(1843)した。ハイネの小説やW.ハウフの《幽霊船の物語》に材を取ったこの作で,ワーグナーは旧来のオペラの手法から脱し,個性を十分に発揮した音楽を書いている。…
※「さまよえるオランダ人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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