花粉分析(読み)カフンブンセキ(英語表記)pollen analysis

デジタル大辞泉 「花粉分析」の意味・読み・例文・類語

かふん‐ぶんせき〔クワフン‐〕【花粉分析】

地層堆積物中に含まれている花粉や胞子を層別に調べ、その消長によって過去の植物の分布・変遷や当時の気候などを推定すること。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「花粉分析」の意味・読み・例文・類語

かふん‐ぶんせきクヮフン‥【花粉分析】

  1. 〘 名詞 〙 土中に残存する花粉を検出してその種類割合を分析し、これによって地層や遺跡の環境、年代を推定すること。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「花粉分析」の意味・わかりやすい解説

花粉分析 (かふんぶんせき)
pollen analysis

地層中に埋もれた過去の植物の花粉pollenおよび胞子sporeをとり出し,それらを識別鑑定するとともに,そのおのおのの量的な分布を調べるまでの一連の操作をいう。その結果は,地質学,古生物学,考古学,林学などに利用される。とくに地質学や考古学の分野では,過去の気候や植生を知るための資料として重要視される。また特定の花粉や胞子は,ある特定の地質時代にしか発見されないことを利用して,これらの花粉や胞子を含む地層の地質時代を知るために利用される。

 試料の種類,年代,固結の程度によって,花粉・胞子をとり出す方法はさまざまであるが,一般に試料の粉砕,ふるいわけ,化学的処理,プレパラート作製順序となる。試料は30~60メッシュの粒度に砕き,化学処理は水酸化カリウムと酢酸(泥炭などの場合),水酸化カリウムと過酸化水素(褐炭などの場合),硝酸塩素酸カリウム石炭などの場合)を用いて試料中の可溶性物質は除く。固結した岩石の場合は,フッ化水素水により岩石(ケイ質部分)を溶解する。残渣(ざんさ)は遠心分離器によって濃縮し,これをプレパラートに封入して,高倍率の顕微鏡で鏡検,種類を鑑定する。近年では花粉・胞子の識別・鑑定をより正確に行うこと,またとくに花粉の表層の状態からその機能を知るなどの目的から,走査型電子顕微鏡による観察が行われている。また花粉分析と同じ方法で,従来はあまり手をつけられることのなかった花粉・胞子以外の微化石の分析も進められるようになっている。最近では30億年以上も昔の地層から,バクテリア藻類化石が発見されている。花粉・胞子を含む地層が,後に激しく褶曲をしたり,火成岩の貫入による熱の影響を受けたりすると,これらの花粉・胞子は一般に消失する。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「花粉分析」の意味・わかりやすい解説

花粉分析
かふんぶんせき

地質学的に古い地層の堆積(たいせき)物に含まれている花粉を調べる方法。花粉の外壁は分解されにくいタンパク質や脂肪などの物質からなるうえに、湿原の泥炭地、池底の堆積物など分解条件の悪い所ではさらに分解されにくくなるので、他の生物遺骸(いがい)が分解されたのちも、花粉はそのまま保存されることが多い。花粉の形態は、種や属によってそれぞれの特徴を示すので、異なる深さの地層から検出される花粉を調べることによって、当時の植生、森林の状態、気候などを推定できる。しかし、マツなどの場合には、植物の種類によって花粉の生産量、散布範囲などに差があるため、採集した花粉の分布を判断するためには、植物の基礎知識を必要とする。

 花粉分析は、ポストL. von Postらにより考案され(1916)、北ヨーロッパの泥炭層での植物や気候の変遷が調査された。この結果が他の分野からの結果とよく一致したことから、広く世界的に利用されるようになった。日本でも1923年(大正12)以来、第四紀の堆積層の調査はこの方法により行われている。今日では花粉分析の結果は燃料資源の開発、海底地質の解明などにも広く役だっている。

[杉山明子]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「花粉分析」の意味・わかりやすい解説

花粉分析【かふんぶんせき】

堆積物中の花粉を調べて,各層に対応する過去の森林,草原等の樹種,出現状態,群落の遷移,気候変化を推定する研究。その結果は古気候や古環境の復元,生層位学などに利用される。たとえば,北欧の氷河の前進後退に伴う植物帯の移動,気候変化の解明などに威力を発揮。
→関連項目気候変化古気候学

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「花粉分析」の意味・わかりやすい解説

花粉分析
かふんぶんせき
pollen analysis

現在の土壌や地質時代の地層の中から,花粉や胞子を取出し,研究すること。花粉の形から植物の属の区別ができるので,過去の森林の歴史,植生の状態,気候の変遷などの解明に役立つ。泥炭,亜炭,褐炭などの炭質物や有機物を含む泥岩などは,花粉が多くて花粉分析に適する。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の花粉分析の言及

【胞子】より

…胞子壁をつくるスポロポレニンは,化学的にきわめて安定した物質であるので,胞子は化石として残りやすい。そのため,埋土した胞子を調査研究する花粉分析は,陸上植物の起源,系統進化などを解明する上で有効な方法である。それによって,最初の陸上植物の胞子は同形胞子,三稜形で単純な表面模様であったこと,コケ植物やシダ植物あるいはその片方が,その大型化石が発見されていない古生代の中部シルル紀(4億1500万年前)にはすでに存在していたこと,中部デボン紀にはすでに異形胞子に分化していたことなどがわかっている。…

※「花粉分析」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

世界の電気自動車市場

米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...

世界の電気自動車市場の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android