ドイツの作家ゲーテの小説。初稿は1774年刊行、表現を和らげた第二稿は87年に刊行され、一般にはこの形で読まれている。自然にあこがれる純粋な青年ウェルテルは、16歳の少女ロッテを知り激しい恋に陥る。ロッテにはアルベルトという許婚者がいる。許されぬ恋をあきらめることのできない彼はピストルで自殺する。そこには、貴族社会が市民に抱く理由のない蔑視(べっし)に対する憤激も語られている。1770年ころにおこったシュトゥルム・ウント・ドラング(疾風怒濤(しっぷうどとう))の文学運動の代表的な作品。ウェルテルの書簡という形でまとめられたこの小説には、同じく書簡体で書かれたルソーの『新エロイーズ』(1761)の強い影響がみられる。大きくみれば、それはヨーロッパのロマン主義のドイツでの輝かしい成果といってもよい。花咲く春から荒涼とした冬に至るまで、自然の風物は主人公の内心の状態と微妙に照応し、息苦しいほどの青春の息吹は今日でもみずみずしさを失わない。若いウェルテルの悩みは、絶対者と有限な人間存在との悲劇的矛盾を象徴するということもできる。
[小栗 浩]
『竹山道雄訳『若きウェルテルの悩み』(岩波文庫)』▽『神品芳夫訳『若きヴェルターの悩み』(『ゲーテ全集6』所収・1979・潮出版社)』
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