中国,北宋の政治家。興化仙遊(福建省)の人。字は元長。熙寧3年(1070)の進士に合格。哲宗の元祐年間(1086-94)司馬光が用いられて旧法(保守政策)が復活すると,知開封府の地位にあった蔡京は,わずか5日間で新法(革新政策)をやめて旧法にきりかえて司馬光をよろこばせた。諸方の地方官をつとめたのち,1094年(紹聖1)権戸部尚書となって中央に帰り,徽宗に新法復活の意のあることを知ってこれに取り入り,1102年(崇寧1)尚書左丞を拝し,間もなく右僕射,翌年には左僕射に進んだ。以後4回(1102-06,1107-09,1112-20,1124-26)通計16年近く宰相の地位を保ち,ことに16年(政和6)4月から20年(宣和2)6月までは宰相の上に位して,総治三省事を命ぜられ,自ら公相(こうしよう)と号した。その間に深くその勢力を扶植し,子の蔡鞗(さいちよう)が徽宗の女を妻とするに至り,権勢ならびなきありさまであった。彼は旧法党の勢力挽回を恐れ,司馬光以下の人々を元祐党籍(げんゆうとうせき)に入れ,その子孫が栄進の機会をえるのを防ぎ,名実ともに新法党の首領としての貫禄を示した。のち,早くから因縁のあった宦官童貫と結託し,徽宗にすすめて,金と結んで遼を夾攻するという計略を実行させたが,宋が背約の行為をあえてしたので,その結果,強力な金軍の来攻をうけた。そのため,徽宗退位後,国難を招いた六賊の筆頭にあげられて失脚し,儋州(たんしゆう)(広東省海南島)の配所にいく途中,潭州(たんしゆう)(湖南省)で病死した。
蔡京の本領は,政治家としてよりも,むしろ文化人として発揮され,徽宗をたすけて北宋文化の興隆に寄与するところが大であった。弟の蔡卞(さいべん)(?-1117)とともに能書をもって聞こえ,また鑑識にも秀でていた。書は初め北宋,のちしだいに唐の書を学び,さらに王羲之・王献之にせまったといわれ,とくに,大字,行書によく,権勢をほこった大官らしく,《大観聖作碑》の額など,悠々とした精彩のある作品が多い。
執筆者:外山 軍治
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
中国、北宋(ほくそう)末の政治家。字(あざな)は元長。興化仙游(こうかせんゆう)(福建省仙游県)の出身。1070年進士に及第。第8代皇帝徽宗(きそう)に仕え、4回にわたって政権を掌握した。新法を復活したので有名であるが、政治方針に確固たる信念があったわけではない。たとえば、司馬光が旧法を復活するといち早くこれに従ったエピソードも伝えられており、時の権力者に迎合しつつ、巧みに身を処して権力を握ったのである。弟の卞(べん)(1058―1117)とともに、能書家としても有名で、文化趣味の徽宗に取り入り、宦官(かんがん)の童貫と結託して政権を独占した。新興の金と結んで遼(りょう)を滅ぼしたが、同時に金の侵攻を受けて北宋の滅亡を招いた。徽宗退位後に国賊6人の筆頭として、配流の途中に没した。
[伊原 弘]
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
…中国,北宋第8代皇帝,徽宗(きそう)時代,江南地方に課せられた特殊な負担。花(珍木)・石(奇石)を好んだ徽宗に迎合した宰相蔡京(さいけい)が,宦官朱勔(しゆべん)らに命じて江南地方に花石をもとめ,船団を組んで運河を北上して国都へ送らせた。これを花石綱と呼ぶ。…
…太后摂政中は,新(革新政策),旧(保守政策)を折衷した政治を行ったが,太后が没して親政すると,父神宗の断行した新法を採用した。しかし,政治には熱心でなく,蔡京(さいけい)を信任してまかせきりにし,豪奢な生活をして国費をついやした。その時,女真族が遼(契丹)の支配を脱して東北地方に金国を建てた。…
…やがて哲宗が親政すると,今度は新法党人を起用したが,彼らは改革よりは反対派に報復することに力を注いだので,新旧両党の争いに拍車をかけることになり,政治の混乱を招いた。加えて事実上の北宋最後の皇帝となった徽宗は,政治のことは宰相の蔡京にまかせて,日夜遊興にふけり,書画骨董の収集に熱中し,豪壮な宮殿,庭園,道観等を造営したりして,莫大な金銭を使った。その補塡のために,蔡京はあらゆる手段を用いて誅求を行い,人民を苦しめたので,浙江の方臘(ほうろう),山東の宋江はじめ各地で反乱が勃発し,政府はその鎮圧に手をやいた。…
※「蔡京」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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