薔薇物語(読み)バラモノガタリ(英語表記)Roman de la Rose

デジタル大辞泉 「薔薇物語」の意味・読み・例文・類語

ばらものがたり【薔薇物語】

原題、〈フランスRoman de la Rose中世フランスの教訓寓意詩。ギョーム=ド=ロリスによって1225~1240年に書かれた第一部は宮廷趣味の恋愛作法を幻想的に描き、ジャン=ド=マンによって1275~1280年に書かれた第二部は、愛欲的恋愛観を社会批評を交えて展開

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精選版 日本国語大辞典 「薔薇物語」の意味・読み・例文・類語

ばらものがたり【薔薇物語】

(原題Le Roman de la Rose) 寓意文学。前編はギョーム=ド=ロリス作、後編はジャン=ド=マン作。一二二五~八〇年頃発表。フランス中世の詩文学の代表作の一つ。前編は中世の宮廷趣味の恋愛を幻想的に描き、後編は愛に関する現実主義的合理的概念をさまざまな人物に託して、寓意的に描いた。

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改訂新版 世界大百科事典 「薔薇物語」の意味・わかりやすい解説

薔薇物語 (ばらものがたり)
Roman de la Rose

フランス中世の韻文物語作者を異にする前・後編からなり,前半4020行(ルコア版)はギヨーム・ド・ロリスGuillaume de Lorrisによって1237年頃に,後半1万7722行はジャン・ド・マンによって1275-80年頃に書かれた。物語は作者が見た夢を語るという形をとり,恋の成就(バラを手折ること)と恋愛作法を,抽象的な観念形象化・擬人化するアレゴリーを用いて描く。したがって物語は字義通りとアレゴリーの二重の読取りを必要とする。主人公は〈悦楽〉の園で〈愛〉の矢(〈美〉〈率直〉〈礼儀〉など)に当たり,バラに心を奪われるが,〈羞恥〉〈恥辱〉〈恐怖〉など女性心理の寓意的人物や〈悪口〉が見張る塔に幽閉されてしまう。前半は宮廷風恋愛の心理や過程を流麗な文体で形象化したものであるが,後半は物語の枠組を踏襲しながらも,精神は全く相反するものとなっている。主人公は〈自然〉の司祭ゲニウスとウェヌスビーナス)に励まされ,〈愛〉の軍勢によってついにバラを折ることに成功する。作者がここで説くのは個人にかかわる宮廷風恋愛ではなく,人間は神が造った自然の理法に従って生きるべきものとする汎神論的自然主義であり,作品全体は合理的批評精神に貫かれ,近代の先駆となっている。これは物語というよりは膨大な知識を盛り込んだ〈鑑〉と言えよう。この作品は16世紀に至るまで読み継がれ,大きな影響を与え,その激しい女性攻撃は14世紀末に文学史上重要な〈薔薇物語論争〉を引き起こし,保守主義と人文主義を対立させた。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「薔薇物語」の意味・わかりやすい解説

薔薇物語
ばらものがたり
Roman de la Rose

13世紀フランスの寓意 (アレゴリー ) 文学の最高傑作。中世文学中最も愛好され,後代に多大の影響を与えた。最初 1230~40年頃ギヨーム・ド・ロリスがオウィディウス,クレチアン・ド・トロアらの影響を受け,従来から扱われた題材を用いて 4058行の物語を著わした。女性を茨に囲まれた薔薇に擬した比喩的な物語の体裁で恋愛心理を図式化し,宮廷風恋愛の掟を説き,古典的教養を交え教化する目的がロリスの作品の特徴である。 75~80年,ジャン・ド・マンがそれを未完とみなして書き継ぎ,1万 7722行の膨大な続編を加えた。前編の女性賛美の恋愛観を真向から否定し,作者の豊かな学識に基づく哲学的教化的傾向,饒舌な説教臭が一層顕著になった。女性に対する大胆で痛烈な風刺はクリスチーヌ・ド・ピザンらとの激しい論争を引起した。

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百科事典マイペディア 「薔薇物語」の意味・わかりやすい解説

薔薇物語【ばらものがたり】

13世紀フランスの寓意文学。2部からなり,それぞれ文体も精神も異なる。前編はギヨーム・ド・ロリス作で,宮廷風騎士道恋愛作法を内容とする優雅な詩。後編はジャン・ド・マン作で,愛は理性と自然によって定義され,結婚,王権,騎士制度,聖職者などが合理主義的精神によって批判される。また,そこに認められる女性蔑視の思想はピザンらによる〈薔薇物語論争〉を15世紀初頭に引きおこした。
→関連項目アレゴリーチョーサー

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