平安中期の法師陰陽師。道摩ともいう。安倍晴明と術くらべする人物として登場することが多い。《古事談》《宇治拾遺物語》《十訓抄》に,道摩法師が藤原顕光の命で藤原道長に妖術をしかけるが,道長の犬と晴明に見破られ,本国播磨国に追放されたと伝える。《峯相記》《東斎随筆》に同じ説話が見え,道摩を道満に作る。《簠簋袖裡(ほきしゆうり)伝》(室町末ごろ写,竜門文庫蔵),《簠簋抄》(1629)に,道満は晴明と術くらべをして敗れ,晴明の弟子となる。のち晴明の入唐中,その妻利花と通じて秘蔵の卜占の書《金烏玉兎(きんうぎよくと)集》を写し取り,帰朝した晴明の首を斬る。術を用いてこれを知った晴明の師,大唐荆山の伯道上人は,来朝して晴明の遺骨を集め生活(しようかつ)続命の法を修して蘇生させ,道満の首を斬り,利花をも殺す。古浄瑠璃《信田(しのだ)妻》は,晴明・道満伝説を脚色したものであるが,道満を蘆屋宿禰の後裔とし,宿禰以来,法道仙人の法術を伝えたとする。道満の生国は,《簠簋抄》に薩摩国とする以外は,すべて播磨国とし,《峯相記》は同国佐用郡の奥に住し,後裔は英賀(あが)・三宅にあってその芸を継ぐとする。今日でも三宅(姫路市飾磨区)には蘆屋塚があって,道満の末孫を称する者がいて,もと佐用郡仁方村に住したが,のちこの地に移住したと伝える。古記録によれば,この地には赤松満祐に薬を与えた蘆屋道薫をはじめ,室町期に活躍した蘆屋道仙・道善・道軒・道海などが住したことが確認できる。中古以来の説話集にも智徳をはじめとして,播磨陰陽師,播磨相人などの活躍がみられるところから賀茂,安倍2氏とは別系の陰陽師の拠点であったと考えられている。京の道満の居所は《古事談》などに六条坊門万里小路とあるが,江戸期の地誌類では大宮通三条の南にあったとする(《京羽二重織留》《雍州府志》《和漢三才図会》など)。また日本の各地に蘆屋塚・道満塚・道満井戸など,その伝説を伝えるところが多く,大和生駒郡安堵村飽波,近江国犬上郡北青柳村長曾根などは道満を非人の祖と伝え,若狭国では八百比丘尼の父を道満とする伝説があり,武蔵・会津などでもさまざまな伝説がある。
執筆者:山本 吉左右 道満は人形浄瑠璃や歌舞伎でも活躍する。《信田森女占(しのだのもりおんなうらかた)》(1713初演)においては,一条戻橋で待ち伏せた道満は,保名・晴明の親子を討ち取ろうとするが,逆にとらえられて首をはねられることになっている。さらに,〈信田妻〉系統の歌舞伎狂言の代表作で,《葛の葉》の名で知られる《蘆屋道満大内鑑(おおうちかがみ)》(竹田出雲作,1734初演)における道満は,はじめ道満(みちたる)の名で,安倍保名のライバルとして登場するが,三段目で発心剃髪して,道満(どうまん)と称し,陰陽道に専心することになる。四段目では,狐葛の葉と保名との間に生まれた童子と問答をし,その聡明さに感心して,童子を晴明と名づける人物として描かれている。
執筆者:中山 幹雄
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(脊古真哉)
出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報
…異類婚姻譚として著名な信田妻(しのだづま)の伝承は17世紀後半からしばしば人形浄瑠璃や歌舞伎に取り上げられていたが,本作はそれらを集大成した作品。秘伝書《金烏玉兎集(きんうぎよくとしゆう)》をめぐる安倍保名(やすな)と蘆屋道満との対立を主筋とし,保名に助けられた白狐が許婚葛の葉姫の姿を借りて契りを交わし一子を儲けるという安倍晴明の出生譚を絡めたもの。竹本大和掾の風を伝える四段目口の〈葛の葉子別れの段〉がもっぱら上演されてきた。…
…五説経(説経節の五つの代表作)の一つに数えられるが,説経節正本の所在不明。陰陽師安倍晴明の出生にまつわる話と,蘆屋道満(あしやどうまん)との術くらべの話からなる。命を助けられた狐が人に姿を変えて安倍保名と契り子を生む。…
※「蘆屋道満」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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