香木の一種。正倉院宝物の香薬中,目録に黄熟香(おうじゆくこう)と記されている3貫500匁,5尺1寸の香木を香道家は蘭奢待と呼ぶ。木所(きどころ)は伽羅である。目録では薬物に分類され,鎮静,去痰の薬効があるという。芯の部分は朽ちて空洞となっている。数ヵ所に截香の跡がある。黄熟の語義は明らかでないが,中国明代,倪朱謨(げいしゆばく)の《本艸彙言》によれば,木肌が熟して黄色をおび佳香を発するところから名づけられたという。蘭奢待の名称に定説はない。蘭奢待は伝説的な天下第一の名香で,香木中別格の扱いをうける慣例である。葉(ぎんよう)を2枚重ねてもよく発薫し,すがれ(匂いの変化)のないために〈十返り〉も聞けるという。源頼政が鵺(ぬえ)を退治した功により賜ったという伝来系譜をもつ蘭奢待が紀州家に伝来したが,確証はない。目録や截香記などに足利義政が2寸,織田信長が1寸8分,徳川家康が1寸8分を,勅許により勅使,勅封使,奉行,目付,香見(こうみ)を立てて截香した記録がみられる。3人以外に拝領した者はいないが,分木して大名家や神社などに秘蔵されている。
→香木
執筆者:神保 博行
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正倉院中倉に伝世する香木。聖武(しょうむ)天皇によって蘭奢待と命名されたと伝わる。銘文中に東大寺の名が含まれるところから、別名東大寺、また黄熟香(おうじゅくこう)とも称する。名香六一種のうち第一の名香として、香道では奇宝とし、聞香(もんこう)では返し十度の作法を伝える。足利義政(あしかがよしまさ)、織田信長らが、この沈香(じんこう)を切り取った話は有名で、また正親町(おおぎまち)天皇は「聖代の余薫」と歌った。信長に下賜された小片は京都・泉涌(せんにゅう)寺と尾張一宮(おわりいちのみや)に寄進され、千利休(せんのりきゅう)も、この香の聞香者である。
[猪熊兼勝]
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出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…《正倉院御物棚別目録》《法隆寺資財帳》《東大寺献物帳》等には,黄熟香(おうじゆくこう),全桟香(ぜんせんこう),沈香(じんこう),沈水香などの名で,香木が麝香(じやこう),コショウ,桂心等の香料とともに香薬として記載されており,また正倉院には黄熟香,全桟香,沈香のほか薫陸香(くんろくこう)(乳香),丁香(丁字花),えび香(調合した防虫芳香剤)等の香料が多量に収蔵されている。香道家はこの黄熟香を蘭奢待(らんじやたい),全桟香を紅塵(こうじん)と香銘で呼んでいるが,いずれも伝説的な天下第一の名香である。平安貴族は香を神仏に供えるのみでなく,日常生活の中で賞美する趣味の対象とし,沈香の粉末のほか各種の香料を調合練り合わせる空薫(空香)物(そらだきもの)(練香)に婉艶華麗な世界をひらき,秘技を競った。…
※「蘭奢待」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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