虚偽の意識(読み)きょぎのいしき(英語表記)falsches Bewußtsein ドイツ語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「虚偽の意識」の意味・わかりやすい解説

虚偽の意識
きょぎのいしき
falsches Bewußtsein ドイツ語

人々の社会的存在の真実を隠蔽(いんぺい)し、彼らの生活基盤としての社会諸関係の客観的構造から遊離している意識をさす。人々は、それぞれの生活過程のなかで、無数の社会諸関係に包摂されており、またこのことを通じて社会の客観的な構造を日々に再生産している。したがって、ここには、人々の社会構成体のなかでの客観的な位置と、彼らが主観的に抱く生活意識や社会意識との連関がどのような内容のものであるかという問題が生じてくる。

 マルクスエンゲルスは、『ドイツ・イデオロギー』(1845~46)において、資本主義社会の生産関係、階級関係資本家階級労働者階級の意識との構造的な連関を浮き彫りにした。ルカーチは、さらに、このような社会的存在と社会意識の連関のなかで、自らの階級支配の構造を「隠蔽」しようとする資本家階級の意識を虚偽の意識とし、そのような階級支配の構造それ自体を客観化し、変革しようとする労働者階級の意識を「真実の意識」とした。これに対して、マンハイムは、階級のいずれであるかを問わず、人々の社会的存在に適合しない社会意識のすべてを虚偽意識としてとらえようとする。いずれにしても、マス・メディアが発達し、階級支配の構造が複雑化している今日では、被支配者階級の人々の社会意識の内部での彼らの階級意識と、支配者階級のイデオロギー浸透としての虚偽の意識との対立緊張が問題の焦点である。

田中義久

『K・マルクス、F・エンゲルス著、廣松渉編・訳『ドイツ・イデオロギー』(1974・河出書房新社)』『ルカーチ著、城塚登・古田光訳『歴史と階級意識』(1968・白水社)』『マンハイム著、鈴木二郎訳『イデオロギーとユートピア』(1968・未来社)』『田中義久著『社会意識の理論』(1978・勁草書房)』

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