改訂新版 世界大百科事典 「カンラン岩」の意味・わかりやすい解説
カンラン(橄欖)岩 (かんらんがん)
peridotite
主としてカンラン石より構成されるマグネシウムに富む超塩基性深成岩。一般にカンラン石のほかに輝石が伴われ,生成条件によってスピネル,ザクロ石,斜長石,角セン石,黒雲母などが副成分鉱物として含まれる。カンラン石が90%以上で,輝石の少ないものをダナイトduniteと呼び,それ以下のものについては,伴われる輝石の量比によって,斜方輝石の多いものをハルツバージャイトharzburgite,単斜輝石の多いものをウェーライトwehrlite,両方とも多いものをレルゾライトlherzoliteと呼ぶ。
産状は,(1)塩基性層状分化岩体の下部層を構成するもの,(2)造山帯ないし構造帯に産出するもの,(3)アルカリ玄武岩やキンバーライト中に団球状に包有されているものの3種類がある。最初の例としては,南アのブッシュフェルトBushveld岩体,アメリカ,モンタナ州のスティルウォーターStillwater岩体,カナダのマスコックスMuskox岩体などが有名で,輝岩,斜長岩,斑レイ岩などと層状構造をなし,しばしばクロム鉄鉱や白金の鉱床がみられる。この種のカンラン岩は,マグマ溜りのなかで,玄武岩質マグマの結晶分化作用によって早期に晶出したカンラン石,スピネル,輝石などの結晶が,マグマ溜りの底に沈積して形成されたものである(こうして形成された岩石を集積岩cumulateと呼ぶ)。
後の二つの産状を示すカンラン岩は,上部マントル(深さ35~900km)の上部を構成する岩石であり,地球の内部構造を研究する上で重要である。造山帯や構造帯に産するものはアルパイン型と呼ばれ,オフィオライト最下部を構成するハルツバージャイト・レルゾライト・グループと,高温型変成帯にレンズ状岩体として産するレルゾライト・グループに分けられる。前者は海洋地域の上部マントル最上部を構成している岩石とみなされている。原始地球は固体粒子の集まった境目のはっきりしないものであったが,しだいに高温となり,重い物質は中心部に移動し,核とマントルが形成された。初生的マントルの上部層はカンラン岩よりなり,このカンラン岩がレルゾライトである。その後この初生的マントルが部分的に溶融し,玄武岩質の物質が溶け出し,軽いため上方に移動し地殻が形成された。とくに海洋地域の下では大量の玄武岩が形成されてマントルから上方に運ばれる。このようにしてレルゾライトから玄武岩質の物質が取り去られたカンラン岩が海洋地域の上部マントルを構成するようになる。このカンラン岩がハルツバージャイトである。
上部マントルの初生的カンラン岩であるレルゾライトは,地上では高温型変成帯の小岩体としてみることができる。これは大規模な構造運動に伴って,上部マントルの一部が地殻上部に現れたものである。それらのうち,ザクロ石レルゾライトは上部マントルカンラン岩層の最も深い部分のもの,スピネルレルゾライトはその次,斜長石レルゾライトは最も浅い部分のものである。そのためザクロ石レルゾライトの産出はきわめてまれで,西アルプス,ボヘミア,ノルウェーなど10ヵ所くらいで見つかっているにすぎない。北海道日高山脈のスピネルレルゾライト,斜長石レルゾライトの一部は上部マントル岩石と考えられている。
アルカリ玄武岩やキンバーライトに包有されている団球状のカンラン岩(普通20cm以下)の多くは,上部マントルの初生的カンラン岩の破片である。アルカリ玄武岩やキンバーライトは上部マントルから高速度で上昇し地表に噴出したもので,マグマが通過する途中の岩盤を破片として取り込み,地上に運んでくる。それらは地球深部の貴重な情報源となっている。アルカリ玄武岩中のものは,スピネルレルゾライトが主で,日本の例では,秋田県男鹿半島一ノ目潟のものが有名である。キンバーライト中のものは主としてザクロ石レルゾライトで,より深いところから運ばれてきたものである。これらの岩石は地球の150~200kmくらいの深さからもたらされたもので,われわれが手にすることのできる最も深い部分の岩石である。キンバーライトは大陸の最古の楯状地地域に限られており,日本列島のような新しい造山帯には産出しない。
執筆者:小松 正幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報