蟬丸(読み)せみまる

世界大百科事典 第2版の解説

虚構の人名説話では,延喜帝(醍醐天皇)の第4皇子で,盲目のため逢坂山へ遺棄された琵琶名手と伝える。《後撰集》(巻十五)に,〈逢坂に庵室を造りて住み侍りけるに,行きかふ人を見て〉の詞書のもとに,〈これやこの行くも帰るも別れつつ知るも知らぬも逢坂の関〉の和歌が収められ,作者は蟬丸となっている。この歌は《百人一首》にも選ばれ,人口炙しているが,作者蟬丸についてはまったくわかっていない。信ずべき史料には,この名の人物の実在を証するに足るものは皆無といってよい。
能の曲名四番目物。狂女物。世阿弥時代からある能。古くは《逆髪(さかがみ)》とも呼んだ。作者不明。シテは逆髪の宮(狂女)。延喜の帝の第4皇子蟬丸の宮(ツレ)は,幼少時から盲目だったので,帝が侍臣の清貫(きよつら)(ワキ)に命じて逢坂(おうさか)山に連れて行かせ,剃髪(ていはつ)のうえ捨てさせる。宮は前世の報いとあきらめ,今ではただ一人の同情者である博雅三位(はくがのさんみ)(アイ)が用意してくれた藁屋に住み,琵琶に心を慰めている。

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世界大百科事典内の蟬丸の言及

【海道下り】より

…一ノ谷の戦で生け捕られた平重衡(しげひら)は,東海道を鎌倉へ護送されることになった。四宮河原(しのみやがわら)を通るときは,延喜の帝の第4皇子蟬丸の昔がしのばれた。蟬丸がここに住んで琵琶を弾いていたのを,博雅三位(はくがのさんみ)が毎日立ち聞きして秘曲を伝承したという言い伝えのある地なのである(〈中音・初重〉)。…

【逆髪】より

…虚構の人名。醍醐天皇の第3皇女で,蟬丸の姉宮。生まれながら髪が空に向かって逆立っている異形の女性。…

【琵琶法師】より

…7世紀末ころに中国より伝来した琵琶は,管絃の合奏に用いられる一方,盲僧と結んで経文や語り物の伴奏楽器とされた。《今昔物語集》には琵琶にすぐれた宇多天皇の皇子敦実親王の雑色(ぞうしき)蟬丸(せみまる)が,盲目となって逢坂山に住んだが,そのもとに源博雅(みなもとのひろまさ)が3年間通って秘曲を伝授される話を載せる。蟬丸は琵琶法師の祖とされ,醍醐帝第4の皇子という伝承を生むが,一方彼らの自治組織ともいうべき〈当道(とうどう)〉では,仁明天皇第四皇子人康(さねやす)親王を祖神とし,天夜(あまよ)尊としてまつる。…

【逆髪】より

…虚構の人名。醍醐天皇の第3皇女で,蟬丸の姉宮。生まれながら髪が空に向かって逆立っている異形の女性。…

※「蟬丸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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