血合肉(読み)ちあいにく(英語表記)dark muscle

日本大百科全書(ニッポニカ) 「血合肉」の意味・わかりやすい解説

血合肉
ちあいにく
dark muscle

魚類の体側にある筋肉のうち暗赤色を呈する部分をいう。血合筋(ちあいきん)ともいう。血合肉は、体の表層部とくに側線下部付近によく発達する表層血合肉superficial dark muscleと、背骨の周囲の深部に位置する真正血合肉true dark muscleに分けられる。

 表層血合肉はいずれの魚類にもあるが、海洋の表層を活発に回遊する魚によく発達し、海底深海にすむ魚ではわずかしか発達していない。真正血合肉はカツオマグロなど外洋を大回遊する中形魚、大形魚だけに発達している。血合肉の全肉量に対する割合は魚種によって千差万別であるが、多いものでは20%以上、少ないもので数%以下、普通10~15%である。

 血合肉は血管分布が豊かであり、呼吸に関係したミオグロビンヘモグロビンなどの赤い色素が多い。そのほか、チトクロムグリコーゲン、ビタミンB群、鉄なども普通肉に比べて多い。血合肉はグリコーゲンや脂質をエネルギー源として多くの酸素を利用し、長時間の運動に耐えられる。疲労を回復させる働きは普通肉よりも優れている。クロマグロ、カツオなどでは活発な呼吸によって生じた呼吸熱を体内に保持し、特殊な血管の分布系によってさらに体温を高めることができる。つまり呼吸熱が血管によって体組織からえらに運ばれる間に、血液が逆方向に流れる血管に移り、熱が循環する仕組みになっているためであり、これを逆熱交換システムとよぶ。暖かい筋肉は遊泳力を増すことができるし、低水温域へも回遊することを可能にしている。また、血合肉は第二の肝臓ともいわれる。脂質やコレステロールなどの組成が似ており、グリコーゲンなどの含量が多い点で両者は共通している。血合肉は遊泳の推進力を生み出すとともに、肝臓の働きの一部分を分担している。このため血合肉が発達した魚では肝臓が小さい傾向がある。

落合 明・尼岡邦夫 2015年3月19日]

食品

血合肉は一般に、カツオ、マグロ、サバ、イワシサンマなど赤身の魚に多く、タイ、タラカレイなど白身の魚には少ない。血合の部分には血液や鉄分が多いため、食味は落ちるが、ビタミン類が多く、栄養価は高い。大形魚では、外した血合肉を売っていることもあるが、一般には、血合肉を含んだまま調理することが多い。しかし、刺身(さしみ)のように生食するときは取り除く。

 血合肉は生臭みが強いので、しょうゆや砂糖味をきかせたり、矯臭性のあるショウガやみそを用いたり、カレー粉など香辛料を使うと食べやすくなる。

[河野友美]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「血合肉」の意味・わかりやすい解説

血合肉 (ちあいにく)
dark muscle

魚類特有の暗赤褐色の筋肉で,血合筋ともいう。魚類の筋肉には普通肉のほかに俗に血合と呼ばれる暗赤色の部分があり,普通肉に対する割合は魚種や筋肉部位によって異なる。マグロなどの赤身の魚では15%以上と多く,白身の魚では一般に数%で,10%を超すことはない。部位別には,尾部に向かうほどその割合は高く,たとえばマサバの尾部では35%に達する。大部分の魚では体側にそって分布する〈表層血合肉〉のみが見られるが,マグロ,カツオなど外洋性回遊魚では〈深部血合肉〉も発達する。血合肉には結合組織の量が多く,筋繊維の太さは普通肉のものに比べて細い。体側筋中には多数の動脈枝と静脈枝が平行に並び,この構造が熱交換器の役をして,暖まった静脈血の熱は筋肉層に保たれる。このしくみによって筋温は周囲の水温よりはるかに高く維持され,筋肉は効率よく働く。構成成分からみると,水分,粗タンパク質に乏しく,粗脂肪,色素,ビタミン類に富み,各種酵素の活性も高い。このため血合肉は肝臓に似た機能をもつと一時考えられていた。しかし酸素の供給に関与し,血合肉特有の色調の原因であるミオグロビン,ヘモグロビンなどのヘム色素類がとくに豊富なことから,脂質の好気的代謝が活発で持続的なエネルギー供給に適していることが明らかとなった。そのため現在では,血合肉が平常の持続的な遊泳に関与するのに対して,普通肉は急激な遊泳の際に活動するとされる。筋電図でも血合肉がゆっくりとした遊泳に,普通肉が急激な遊泳に際して収縮することが認められている。魚肉の利用加工の面からみると,血合肉の栄養価は高いが食味が劣り,かまぼこなどの製造では白度や弾力を低下させる。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「血合肉」の意味・わかりやすい解説

血合肉【ちあいにく】

魚類の両側面皮下の中央部を縦走する筋肉。血管が多く集まり,血液がたまるため赤黒い色を示す。この筋肉は持続的な遊泳の際に使われる。カツオ,マグロなど運動量の多いいわゆる赤身の魚によく発達し,尾部に向かうほど割合が高くなる。生臭みが強いが一種の風味をもち,ショウガを加えてみそ煮やしぐれ煮とされる。
→関連項目魚肉

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

栄養・生化学辞典 「血合肉」の解説

血合肉

 魚の肉のうち,全体の色と異なり濃い暗赤色を示す部分.特に,背骨の周囲に多い.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android