日本大百科全書(ニッポニカ) 「血漿タンパク質」の意味・わかりやすい解説
血漿タンパク質
けっしょうたんぱくしつ
plasma proteins
血液から血球を除いた血漿部分に含まれる60種以上のタンパク質の総称。ヒトの血漿でだいたい7~8%の濃度である。スウェーデンのティセリウスが1937年に電気泳動装置を考案し、アルブミンとグロブリン(α(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)の3種)に分離した。アルブミンが約60%、グロブリンが約40%である。別に硫安による塩析やエタノール(エチルアルコール)による分離法もある。分子量数万から80万程度の間の約60種のタンパク質があり、その機能も多様である。血清アルブミン(物質の貯蔵・運搬)、リポタンパク質(脂質などの運搬)、ハプトグロビン(α2-マクログロブリンやヘモグロビンの運搬)、トランスフェリン(鉄の運搬)、免疫グロブリン(生体防御・免疫系の抗体)、フィブリノゲンやプロトロンビン(補体、血液凝固系)、プラスミン(凝固した血液をとかすしくみをもつ線溶系)、キニノーゲンやプレカリクレイン(炎症に関与)などがある。プロテアーゼをはじめとする各種の酵素やその前駆体、あるいは分子量約80万のα2-マクログロブリンのような酵素阻害物質も含まれている。全血漿タンパク質の半分以上を占めるアルブミンを中心に、血液の浸透圧や水素イオン濃度(pH)の維持、あるいは栄養源としての役割も重要である。疾病時にはアルブミンとグロブリンの比(A比)が減少する。
なお、血漿タンパク質からフィブリノゲン、プロトロンビン、Ⅴ因子、Ⅷ因子を除いたものが血清タンパク質である。血液凝固をつかさどるⅧa因子はフィブリン安定化因子またはトランスグルタミナーゼで、フィブリンのγ-グルタミン側鎖とε(イプシロン)-リジン(リシン)側鎖のイソペプチド結合を連結させ、物理的に強化する。
[野村晃司]
『寺野由剛著『ヒト血漿蛋白質の機能と病態生理便覧』2版(1973・医学図書出版)』▽『谷本義文著『実験動物の血液・尿生化学』(1988・ソフトサイエンス社)』▽『シーエムシー出版編集部編『バイオセパレーションの応用』(2001・シーエムシー出版)』▽『矢島治明他編『廣川タンパク質化学5 血漿タンパク質』1、2(2001、2002・廣川書店)』