行中書省の略。中国元代の官制に特有な中央の出先機関。元は広大な版図を治めるため,腹裏(現在の内モンゴル・河北・山西・山東のほぼ全域)を中書省で直轄し,その他の地域を10の区画(河南・陝西・四川・甘粛・遼陽・江浙・江西・湖広・雲南・嶺北)に分け,それぞれ行中書省を置いた。最初は両者に官制上の上下関係はなく,中書左丞相や中書平章政事の肩書を帯びた大臣が臨時に地方に派遣され,当地の軍事・行政・財政を統轄した。時代が下るとともに常設の官庁となり,長官の肩書も〈某々行省平章政事〉のように変化し,地方政府の側面を強めていった。行の字を付して地方への臨時的な出張機関を表すのは,すでに南北朝時代に見られるが,元の場合,直接には金代に軍事指揮官が行台尚書省の名で派遣されたことに由来し,特にモンゴル侵入下の混乱した華北で大小の在地軍閥が行省を自称したのを継承する。モンゴル時代から元朝前半期までの大規模な軍事行動の際,前線で全権を委任された軍事指令部が多く行省と称した。一方これとは別に,属領統治のために設けられた出先機関も行省と称した。太宗時代(1229-41),華北統治を担当した燕京行省がその最初で,憲宗時代(1251-59)には全属領を三分して三つの行省を設置した。元代中期以降の行省は両方の性格を引き継ぎ軍事・行政に幅広い権限を持った。明以後の省はこれに由来し,府・州の上の最大の行政区画となった。
執筆者:杉山 正明
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中国、元(げん)代の地方統治機関である行中書省(こうちゅうしょしょう)の略称、通称。元代では中央の最高統治機関である中書省が腹裏(ふくり)とよばれた河北、山東、山西地方を直轄したが、その他の地方は、河南江北、江浙(こうせつ)、江西、湖広、陝西(せんせい)、四川(しせん)、遼陽(りょうよう)、甘粛(かんしゅく)、嶺北(れいほく)、雲南の10地方に分け、それぞれに中書省の出先機関として行中書省を配置し、中書省と同じように下級の統治機関を統轄させた。河南江北の場合を例にとると、正式には河南江北等処行中書省、略して河南行省、河南省とよばれた。行省は、明(みん)代にも継承されたが、まもなく布政使司(ふせいしし)と改められた。行省の略、省はその俗称として用いられ、清(しん)代に及んだ。今日の中国の省の起源は、元代の行省にある。
[海老澤哲雄]
元代の地方統治機関。行中書(こうちゅうしょ)省の略。嶺北,遼陽,甘粛,陝西(せんせい),四川,河南,江西,湖広,江浙(こうせつ),雲南の10地域に置かれ,のち高麗(こうらい)にも設けられた(征東行省)。これに対して河北,山東,山西,内モンゴルは腹裏(ふくり)と呼ばれて中書省に直轄された。行省は中書省とともに皇帝に直属し,その地域の財政,民政,軍政などにわたって広い権限を有した。明以後の地方行政の最大区画である。「省」は,元代の「行省」に由来している。
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…この点,遊牧国家に共通する粗放な政治組織の中に属領とはいえ,先進的な定住民国家の官制が導入されることによって,モンゴル帝国の統治制度は大きく前進したわけである。十路徴収課税所をはじめとするこの種の属領施設は続く憲宗朝に降って,ついに中央政府の現地出張機関たる3行省(燕京,ビシュバリク,アム川)の下に統轄されるまでに至るのであるが,しかしまだこの段階では行省は朝廷の下部機関にすぎず,したがってカラコルム政府は依然として帝国政治の主座を堅持していた。カラコルム政府と行省とのあいだにその地位の転換が生じるのは,次代世祖朝を待って初めて実現するのである。…
…省の原義は宮中のことで,魏・晋のころから禁中におかれた天子の秘書室を中書省,尚書省などと呼ぶようになった。13世紀,モンゴル王朝は支配領域の拡大とともに,中央政府中書省の出先機関として行中書省,略して行省を各地に置いた。これが南宋の併合ののち,広い行政区域を持つ独立官庁となり,その管轄区域を省と呼ぶようになる。…
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