翻訳|duopoly
ある財の売手の数が複数ではあるが少数である寡占のうち,売手の数が2である場合をとくに複占または売手(供給)複占という。売手の数が2であって3以上でないことは,経済的にはとくに意味をもたない。しかし寡占のうち最も単純なケースである複占は,寡占のもつ問題を最も鋭角的に表すケースとして寡占理論の中心をなす。売手の数が1である独占や,売手の数が無数にある完全競争の場合と異なって,寡占の場合には自己の戦略の変更は他の売手の経営環境に影響を与え,その戦略の変更を誘発する。そして,それは再びみずからの政策に影響を与える。したがって寡占の場合一般的に,自己の最適戦略の決定には他の売手の対応を予測することが必要となり,このように寡占市場では戦略決定の相互依存性が決定的に重要である。
いま複占市場における売手をA,Bとし,それぞれが同一の財を供給していると考えよう。このとき,各売手(たとえばA)の戦略としての供給量の決定には,他の売手(B)の供給量がいくらになるかを予測しなければならない。Bの供給を除いた需要量が,Aに残された需要だからである。複占市場における均衡はしたがって,各売手がどのような戦略を選ぶと予測するかに依存する。さまざまな均衡解のなかで最もよく知られているのは,A.A.クールノーによって導出されたクールノーの解Cournot’s solutionである。すなわち,各売手は競争相手の現在の戦略が,自分が戦略を変更しても継続されると考える。このとき,各売手の最適戦略は相手の現在の戦略に依存して決定される。たとえば,Aの最適生産量SAはBの現行生産量SBの関数SA*(SB)として表される(これらの関数は反応関数と呼ばれる)。第2次大戦後ナッシュJ.F.Nashはゲームの理論を用いて,クールノーの理論をより一般的な形で展開した。すなわちクールノー=ナッシュの解と呼ばれるもので,これはSA=SA*(SB),SB=SB*(SA)を同時に満たす。つまり現行の戦略の選択が,相手が戦略を変えないという予測のもとで最適となっている戦略の組合せとして与えられる。
すでに述べたように,複占(より一般的に寡占)の均衡は相手の行動の予測に依存する。このような解としてクールノーの解とともによく知られているのは,スタッケルベルグH.von Stackelbergの解で,それは売手のうち先導者と追随者を区別する。もしAが先導者でありBが追随者であるなら,BはAの行動を所与として(ナッシュ=クールノー的に)行動するのに対して,Aは自己の行動の与えるBへの影響(すなわちBの反応関数SB*)を読んだうえで,自己の最適な戦略を決定する。この解は当然,クールノー=ナッシュの解に比べて,先導者により大きな利潤を,追随者により小さな利潤を与える。
複占下の均衡の性格はまた,戦略として何(供給量,価格,広告等)が使われるか,取引される財がどのような性格(同質的か異質か)か,各売手が競争的に行動するか協調するか等,さまざまな条件に依存し,画一的な性格は存在しない。しかし一般に寡占市場では,価格が硬直化し価格のパラメーター機能が失われる(屈折需要曲線の理論等)といわれる。
執筆者:奥野 正寛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
市場に同じ商品を供給しながら相互に競争している企業が限られた少数である寡占のうち、供給者が2人だけの場合をとくに複占という。完全競争の場合には供給者が多数存在するし、独占の場合には供給者が1人しか存在しないので、いずれの場合にも一企業の行動は他企業に影響しない。ところが複占あるいは寡占の場合には、供給者が少数なので供給者相互の行動が影響しあい、競争がきわめて激しくなる傾向がある。とくに複占の場合には、このような特徴がもっとも鋭角的に現れることが多い。
複占理論には、二つの企業がどのような行動をとるのかという行動仮説に従って種々の理論が存在する。複占理論を最初に展開したA・A・クールノーは、相手企業の生産量は変化しないとみなして、複占企業は自らの利潤が最大になるように生産量を決定するとする行動仮説を用いた。H・フォン・シュタッケルベルクは、複占企業は先導者と追随者からなり、両者の関係で均衡が安定となったり不安定(双方が先導者の場合)となったりすることを示した。複占理論にはこのほか、J・L・F・ベルトラン、A・L・ボーリー、F・Y・エッジワース、H・ホテリングなど多数のモデルが存在する。
[畑中康一]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ここでも,ゲーム理論を使って簡単な例を説明することで,寡占の本質的問題点を明らかにしよう。
[戦略の選択とライバル行動の予測]
いま二つの企業(A,B)がある商品の市場を分け合っている状態を考える(このように売手の数が二つである寡占をとくに〈複占polipoly〉と呼ぶ)。それぞれの売手が高価格と低価格という二つの戦略(行動)のどちらかだけを選べるとすると,市場の状態はA,Bそれぞれがどの価格をつけるかで,四つのケースに分けることができる。…
…また両者とも単一の企業である場合を双方独占という。つぎに,多数の需要者に対して数個ないし十数個の企業が相互間に無視できない経済的影響を及ぼしあって競争しているケースが典型的な寡占であり,企業数が2の寡占をとくに複占という。寡占市場は,そこで取引される生産物が同質とみなされるかあるいは製品分化があるかにしたがって,競争の内容は大いに異なったものになる。…
※「複占」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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