フランスの数学者,経済学者,哲学者。とくに数理経済学の創始者として知られている。オート・サオーヌ州グレイに生まれ,1821年パリのエコール・ノルマルに入学。しかし翌年廃校となったため,23年から10年間シール家の秘書を務めながら研究を続けた。この期間にフランス科学界の著名人たちと接する機会をもつ。また数学者P.G.L.ディリクレと親交を結び,サロンで無政府主義者P.J.プルードンとも会う。29年理学博士号取得。34年数学者S.D.ポアソンの推挙でリヨン大学の理学部数学教授に就任。翌年グルノーブルのアカデミー校長,54年からディジョンのアカデミー校長,また視学官なども兼任する。62年公職から退き,77年3月パリで没した。
経済学の著書のうち,とくに《富の理論の数学的原理に関する研究》(1838)は数理経済学の創始と評価されている。この著書で,需要量の価格への依存は経験的な法則であると説き,これを需要法則と呼び,需要曲線,需要関数として表現した。さらに需要の価格弾力性の概念を提示し,これを用いて単純独占の場合の生産量と価格の決定を分析した。この理論は図によって説明される。生産量を1単位増すと,収入は価格に等しい額だけ増すが,同時に,このより多い生産物を販売するためには価格を下げなければならず,それゆえ収入は生産量と価格低下の積だけ減少する。このように生産量1単位増加による収入の純増分すなわち限界収入は価格より低い。したがって限界収入曲線MRは需要曲線Dより下方に位置する。なお,上述の価格低下のパーセントは需要の価格弾力性の逆数である。さて,利潤の最大化を目的とする企業は,生産量を限界収入と限界費用MCが均等する水準Qに決定しなければならない。また,価格をこの生産量がちょうど需要される水準Pに決定する。この独占価格と生産量を示す点Eは今日クールノーの点Cournot's pointと呼ばれている。単一の企業が市場を独占している単純独占の分析についで,企業数の増加が価格と生産量に及ぼす効果を考察し,完全競争を企業数が無限に多い極限の状態とみなした。この考え方は現在でも〈コアの完全競争均衡への漸近〉の問題として継承されている。なお,数学ではとくに確率論で貢献し,不確実性についての考えは彼の経済学,哲学の基底にもあり,彼が機械的決定論者にならなかったのもそのためであるといわれている。
執筆者:大槻 幹郎
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フランスの経済学者、数学者、哲学者。ソルボンヌ大学(パリ大学)などで数学を学び、リヨン大学の数学教授となる。その後、視学官やディジョン・アカデミー総長なども務める。経済学に本格的な数学の利用を試みた始祖で、『富の理論の数学的原理に関する研究』(1838)は、この領域での古典としての地位を占める。とくに需要の法則、独占価格の決定法則(「クールノーの点」とよばれる)、独占から競争への移行分析、租税・関税の分析などで新境地を開き、また限界原理による経済学研究の先駆となった。ただしその創見も、出版当時は関心をよばず、死の直前にワルラスやジェボンズによって紹介されて初めて真価が認められた。今日、数理経済学史上のその地位は不動である。数学に関する著作では、確率論の分野を開拓し、頻度説の見方を導いた。また哲学者としては、偶然性の解釈に新境地を開き、蓋然(がいぜん)性論によって知識の分類を試みて哲学と科学との関連の解明を企て科学的認識の性格を究明した。
[宮澤健一]
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…しかし同じころ,L.ワルラスは,たんに主体的均衡の分析にとどまることなく,それと市場の均衡の概念とを接合し,相互に依存し合う価格と生産量,消費量の決定を合理的かつ子細に説明することに成功した。この一般均衡理論の創設者の貢献は,彼に先だって複占市場の均衡を分析したA.クールノーのそれとともに,均衡分析の歴史の中で不朽の光を放つものである。 一般均衡理論の簡略型ともいうべき部分均衡理論は,ケンブリッジ学派のA.マーシャルによって多くの問題に有効に援用された。…
…経済学における一定の成功が,このような見解の反例となったためであろう。数理経済学の先駆は1820年代のA.A.クールノーの業績に求められる。彼は独占,寡占の分析に微分学を適用し,数学の有効性を示した。…
※「クールノー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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