アメリカの黒人作家ラルフ・エリソンの長編小説。1952年刊。ドストエフスキーの『地下室の手記』を下敷きに、アメリカ黒人の正体喪失過程をリアルに、ときに幻想的に描く。語り手の主人公は、最後まで名を明かさず、回想の形でアメリカ黒人としての過去を語っていく。「ぼく」は演説の才能を認められ、奨学金で進学した南部の黒人大学を放校になり、北部のペンキ工場で働くうち爆発事故にあい、社会意識に目覚め、左翼の政治団体に加入する。しかし、結局、黒人としての才能を利用されただけだと思い知らされる。ハーレムで起きた人種暴動のさなか、マンホールに落ちてしまい、そこで地下生活を続けながらアメリカ黒人の存在の意味を問う。アメリカ黒人は「見えない人間」で、正体をもたない。それがアメリカ黒人の正体であると思い至り、この認識を逆手にとって人間としての自由の可能性を模索する。
[齊藤忠利]
『橋本福夫訳『見えない人間』(ハヤカワ文庫)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…オクラホマ州の出身で,はじめ音楽家を志したが,1937年ニューヨークでライトと知り合ったのが作家になる機縁となったといわれる。作品としては十数編の短編小説,すぐれた評論集《影と行為》(1964)のほかに,代表作の長編小説《見えない人間》(1952)があるだけである。だが今やアメリカの古典の一つともいうべきこの大作によって,世界の文学界でのその地位は不動のものとなっている。…
※「見えない人間」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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