昔話。禁忌を破った報いを主題にした運命譚(たん)の一つ。旅の男が野中で家をみつけて泊めてもらう。若い女が1人いる。女は、四つの蔵のうち一つは見てはいけないといって、男に留守番を頼む。男が三つの蔵を開けてみると、夏、秋、冬の景色がある。禁止を犯して四つ目の蔵を開けると、梅にウグイスが止まって鳴いている。女主人がきて、約束を破ったことを責め、ウグイスになって飛び去る。家も蔵もなくなっている。男は野原にいる。開けるなといわれた部屋を開けたために不幸になるという昔話は、グリム兄弟の昔話集の「マリアの子供」など、ヨーロッパにも多いが、この昔話は、ウグイスの家を訪問するところに特色がある。破戒の報いも、直接は男自身ではなく、相手の女に及んでいる。この家は、ウグイスの内裏(だいり)といって、人間にはなかなか行けない所であると伝える例もある。男は選ばれて、そのウグイスの家にきていたことになる。女が3000年もかかって積んだ行(ぎょう)がむだになり、もう人間界にはいられないという話には、禁忌を守れば、ウグイスは人間になり、男と結婚して幸せになるはずであったという前提があったのであろう。男の行動は、「鶴(つる)女房」の機屋(はたや)をのぞく破戒の趣向と同じく、女房との絶縁の原因になっている。善い爺(じじ)がウグイスを助けて家に招かれ、宝物をもらって帰ると、隣の悪い婆(ばば)がまねて失敗するという、「舌切り雀(すずめ)」型の話もある。
『今昔(こんじゃく)物語集』に、京都の東三条の戌亥(いぬい)の角の神の高木をいつも拝んでいた僧が、男に案内され、その木の上の宮殿に招かれる話がある。のぞくなという戒めを破って周囲を見ると、月々の行事のようすが見えたとある。話の末尾は欠落しているが、「見るなの座敷」の類話の一つであったかもしれない。
[小島瓔]
昔話。見てはならない座敷をのぞき見て,授かった幸運を逃がす男の話。〈鶯(うぐいす)の内裏〉とも呼ばれる。助けたウグイスが女の姿になって現れ,野中の一軒家で饗応して12の座敷を見せる。12の座敷は季節の花で満ちている。またおりおりの行事や祭りを見せると語る例もある。13番目の座敷を開けるなといって女は出かけるが,男はのぞき見る。そこにはウグイスが1羽法華経を唱えている。気がつくと男は何もない野原に佇立(ちよりつ)している。キツネの報恩譚として伝えられる場合もある。ウグイスは春告鳥,キツネは豊作の神として共に農耕生活に関係深い。いずれの場合も,この昔話は12の座敷の構成上に農耕儀礼と深いかかわりをもつ。女との間に交わされた約束を,男の側が一方的に破るのは,世界的に共通するモティーフである。開かずの間forbidden chamberとして欧米,インド,東洋諸国に広く取り扱われている。約束を破った者が不幸になる例として,この話型はきわめて古い。
執筆者:野村 敬子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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