破戒(読み)はかい

精選版 日本国語大辞典 「破戒」の意味・読み・例文・類語

は‐かい【破戒】

[1] 〘名〙 戒律を破ること。受戒した者が、守るべき戒法にそむく行ないをすること。⇔持戒
霊異記(810‐824)下「若しは破戒、若しは持戒も」
[2] 長編小説島崎藤村作。明治三九年(一九〇六)刊。明治中期の信州舞台に、被差別部落出身の小学校教員瀬川丑松が、社会的偏見と虚偽に抵抗し、父の戒めを破って自分の素性を告白するに至る苦悩に満ちた姿を描く。日本自然主義文学の先駆的作品。

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デジタル大辞泉 「破戒」の意味・読み・例文・類語

はかい【破戒】[書名]

島崎藤村の小説。明治39年(1906)刊。被差別部落出身の小学校教師、瀬川丑松が、周囲の因習と戦い、父の戒めを破って自己の素性を告白するまでの苦悩を描く。日本自然主義文学の先駆。

は‐かい【破戒】

戒律を破ること。受戒者が戒法にそむく行為をすること。⇔持戒

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改訂新版 世界大百科事典 「破戒」の意味・わかりやすい解説

破戒 (はかい)

島崎藤村の長編小説。1906年,〈緑蔭叢書第壱篇〉として自費出版。被差別部落出身の青年教師瀬川丑松(うしまつ)が,〈社会(よのなか)〉の不当な差別と戦う先輩猪子蓮太郎の思想に共鳴し,〈社会〉で生きるためには素性を打ち明けてはならぬ,という父の戒め,さらにはこのまま現在の生活を続けたいという自分の欲求,下宿先の蓮華寺の娘お志保に対する恋に悩みつつ,猪子の死を契機に従来の誤りを悟り,教室で自分の生れを告白し,新生活を求めて町を離れて行く物語。被差別部落問題に対する認識があいまいだという限界はあるが,作者自我解放の欲求と社会正義の問題が結びついたリアリズム小説として,自然主義文学の出発点となった。
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山川 日本史小辞典 改訂新版 「破戒」の解説

破戒
はかい

島崎藤村の長編小説。1906年(明治39)3月,「緑蔭叢書」の第1編として自費出版。被差別部落出身の小学校教師瀬川丑松は,世に出るために「素性を隠せ」という父の戒めを守ってきたが,近代人の自由な生き方に目覚めるなかで,社会的偏見と闘う被差別部落出身の思想家猪子蓮太郎を知り,それに共感する。迫りくる社会的迫害と屈辱のなかで,自己の矛盾に苦しみつつ,ついに生い立ちを周囲に告白して新しい人生をめざしていく。日露戦争前後の日本の社会矛盾を個人の内面葛藤との相関においてとらえ描いた,近代小説成立期を画する作品の一つで,自然主義文学の初期の代表作。なお,出版後水平社から作者の部落問題理解に対する抗議があり,藤村もその後表現を一部改めている。

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デジタル大辞泉プラス 「破戒」の解説

破戒

①島崎藤村の小説。1906年刊行。
②1948年公開の日本映画。①を原作とする。監督:木下恵介、脚本:久板栄二郎、撮影:楠田浩之。出演:池部良、桂木洋子、滝沢修清水将夫宇野重吉北林谷栄、小沢栄太郎ほか。第3回毎日映画コンクール監督賞、助演賞(宇野重吉)受賞。
③1962年公開の日本映画。①を原作とする。監督:市川崑、脚色:和田夏十、撮影:宮川一夫。出演:市川雷蔵、長門裕之、船越英二、藤村志保、三國連太郎、中村鴈治郎、岸田今日子ほか。第17回毎日映画コンクール監督賞、脚本賞、女優助演賞(岸田今日子)ほか受賞。

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百科事典マイペディア 「破戒」の意味・わかりやすい解説

破戒【はかい】

島崎藤村の長編小説。1906年自費出版。被差別部落出身の小学教員瀬川丑松を主人公に,無知や因襲と戦い解放を求める人間の苦悩を描いた問題小説で,自然主義文学の代表作とされる。地方色を的確に描出,また主人公の内面の動きに主眼をおくなど新たな文学性を示した。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「破戒」の意味・わかりやすい解説

破戒
はかい

島崎藤村の長編小説。 1906年発表。未解放地域出身の青年教師瀬川丑松 (うしまつ) が,社会の偏見と差別に苦悩しながら,「隠せ」という父の戒めを破って出自を告白し教壇を去るまでの心理的過程を描いている。教育界の裏面や貧農の生活なども点描され,すぐれた本格的な客観小説となっている。藤村の地位を不動のものとした記念碑的作品。

破戒
はかい

ひとたび授けられた仏教の戒めを破ること。その内容に応じて種々の処分や贖罪法がある。 (→戒律 )

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旺文社日本史事典 三訂版 「破戒」の解説

破戒
はかい

明治後期,島崎藤村の長編小説
1906年刊。信州(長野県)の被差別部落民出身の小学校教師瀬川丑松が,近代的自我に目ざめ,ついに父の戒めを破りその出生を告白するまでの苦悩を描く。これによって藤村の作家的地歩は確立し,日本自然主義文学運動が発足した。

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普及版 字通 「破戒」の読み・字形・画数・意味

【破戒】はかい

五戒を破る。

字通「破」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の破戒の言及

【自然主義】より

…そして日本の自然主義は日露戦争後に,浪漫詩人の自己転身の形をとって,個の解放を求める主我性が既成の権威を否定して人生の真に徹しようとする志向と結びつくという形で成立した。島崎藤村の《破戒》(1906)と田山花袋の《蒲団(ふとん)》(1907)がその記念碑的な作品である。先駆的存在として,小民(庶民)の生活を描き続けた国木田独歩もいた。…

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