最新 心理学事典 「観察法」の解説
かんさつほう
観察法
observation method
実証研究に役立つデータを得るために,心理学をはじめとする諸科学ではさまざまな観察の手続きが考案されてきた。観察が一面的にならないようにする手法としては,関心対象の事象が生じるかどうか,どのように生じるかを一定の時間間隔で記録する時間見本法time sampling,関心対象の事象が生じやすそうな場面や状況を選んで集中的に観察を行なう場面見本法situational sampling,関心対象の事象を前もって特定しておき,それが生じたときにその前後の出来事とともに記録していく事象見本法event samplingなどがある。また,研究目的と観察対象がはっきりしているときには,観察を枠づけるカテゴリーやその属性を評定する尺度をあらかじめ準備したうえで対象の諸側面を記録する組織的観察systematic observationがなされる場合がある。さらに,あらかじめ明確な仮説があり,観察の場の条件が統制できるような場合には,その条件と関心対象の行動との関係を検証するために実験的観察experimental observationが行なわれることもある。観察の目的や仮説を知らない独立の観察者を使って,観察に歪みを生じさせない工夫が行なわれることもまれではない。
以上のような工夫は,観察の焦点が決まっている場合に観察をより客観的にしていく点でとくに有効であるが,近年では,関心対象の現象について幅広い文脈との関連を見いだしながら新たな仮説を生成していく方向においても,観察法が見直されている。研究対象に対して操作を加えず,日常的な場面をそのまま観察する方法を自然的観察natural observationとよぶ。その中でも日誌法diary recording methodは,日常的な場面における対象者の行動を詳細に日誌に記録する方法であり,たとえば親が子どもを観察するような場合に使われる。また,自然的観察は程度の差こそあれ対象にかかわりながらの観察,つまり参加観察participant observationになることが多い。これは文化人類学のフィールドワークなどで使われてきた手法であり,観察者は研究対象者の生活環境に入り込んで,そこで行なわれている活動に参加しながら観察を行なう。この手法は,客観的な行動観察だけでは理解しにくい行動の社会的・文化的な文脈をとらえるために有効であり,質的研究qualitative researchへの関心の高まりとともに,心理学においても利用されるようになりつつある。ただ,そこで得られたデータや分析結果を実証研究としてどう評価していくかは,今後の課題として残されている。 →実験法 →質的研究法 →心理学方法論
〔能智 正博〕
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