日本大百科全書(ニッポニカ) 「計量経済モデル」の意味・わかりやすい解説
計量経済モデル
けいりょうけいざいもでる
econometric model
経済現象を数量的に分析し、あるいは予測するために、その現象に関連する経済的要素を変数として用い、それらの間に存在する因果関係を、経済上の理論に基づいて一般的な数式として表現したもの。
たとえば、消費という経済現象について、それが他の経済要因とどのように関連をもち、その変動とともにどのような大きさとなって定まるかを、計量経済モデルの形で表現することを考えてみよう。人々の消費行動を説明する一つの基本的な経済理論として、消費の大きさは、人間が生存を維持するために必要とされる最低限の消費水準に加えて、所得の増加に比例して増加する消費額によって定まる、という考え方がある。いま、この理論に基づいて、消費を決定すると思われる数量的な関係を表現すると、
C=+αY
と書くことができる。ここで、は理論でいう最低消費水準であり、Yは所得水準、αは所得増加に伴って増加する消費の増加額を定める比例定数(これを経済学では限界消費性向という)である。これらによって左辺の消費額が定まるわけである。
ところが、実際に観測される所得Yとそれに対応する消費Cのデータについてみると、定数であるとαをどのように定めても、すべてのCとYのデータの組をこの式で満足させることはできず、観測データの所得を用いて式の右辺で計算されて得られた値は、一般に、その所得に対応して観測された消費のデータとは、大なり小なりの差が生ずる。そのおもな原因は、人々の消費行動は、基本的には先に述べた所得を要因とする理論によって説明されるとしても、実際には、それ以外の要因、たとえば過去の消費水準、将来の物価の予測、耐久消費財の普及状況、利子率などによっても影響されることによる。現実の経済現象を数量的にできる限り正確に把握することを目的とする計量経済モデルにおいては、理論では説明しきれない要因からの影響をも明示的に考慮する必要がある。そのために、経済理論に基づく経済要因以外の諸要因からの効果を一括して取り扱うことにし、その値は一定の因果関係に基づいた確定的なものとしては理解できないところから、確率的に定まるものと考える。そして、それをvと表現する(これを確率攪乱(かくらん)項とよぶ)と、前述の式は次のようになる。
C=+αY+v
このように、経済理論を基礎としながらも、現実の経済行動をできる限り忠実に数量的に把握するための確率攪乱項が導入されるところに計量経済モデルの一つの特徴があり、それはまた、経済現象の基本的な法則性をみいだすことを主目的とする経済理論との違いを表すものといえる。
[高島 忠]