刑法典の第2編第33章において〈略取及び誘拐の罪〉として略取罪とともに規定されている罪。両者をあわせて略取誘拐罪とも呼ぶ。これらの罪は,他人をその意思に反して自己または第三者の支配下に移して,その移動の自由を制限することを,その本質とする。略取とは暴行または脅迫を手段とする場合であるのに対して,誘拐とは欺罔(ぎもう)または誘惑を手段とする場合である。また,逮捕監禁罪の場合は移動の自由の制限が強度であるが,誘拐罪の場合はその制限の程度が弱いとされるが,誘拐罪の法定刑が一般に高いことから,誘拐罪は被害者の生命,身体が危険となる場合にのみ成立するとされる。
刑法典に規定されている誘拐罪としては,次のような諸類型がある。第1に,未成年者を略取または誘拐した場合は3ヵ月以上5年以下の懲役に処せられる(刑法224条)。第2に,営利,猥褻(わいせつ),結婚の目的で人を略取または誘拐した場合は1年以上10年以下の懲役に処せられる(225条)。営利の目的とは,継続的・反復的であると否とを問わず,財産上の利益を得ることを目的とすることをいう。猥褻の目的とは,被拐取者に対して性的な行為を加えまたは第三者に加えさせることを目的とする場合だけでなく,被拐取者に売春等の性的な行為をさせる場合も含まれる。結婚とは,必ずしも法律上のものであることを要しない。第3に,いわゆる身代金目的の誘拐の場合は,無期または3年以上の懲役に処せられる(225条の2)。この規定は1964年に新設されたもので,当時頻発したこの種の事犯に対処しようとしたものである。条文によれば,身代金目的とは〈近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的〉である(225条の2-1項)。さらに,人を誘拐した後に近親その他被拐取者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させ,またはこれを要求する行為をした場合も,同じく処罰される(225条の2-2項)。前のほうの身代金目的の誘拐罪の場合は予備も処罰されるが,〈実行の着手〉前に自首した場合は刑を減軽または免除される(228条の3)。さらに,225条の2のいずれの場合も,公訴提起前に被拐取者を安全な場所に解放したときは,その刑が減軽される(228条の2)。第4に,日本国外に移送する目的で人を略取または誘拐した場合は2年以上の有期懲役に処せられる(226条1項)。日本国外に移送する目的で人を売買したり,被拐取者・被売者を日本国外に移送した場合も同様である(同条2項)。第5に,以上のような罪を犯した者を幇助(ほうじよ)する目的で,被拐取者または被売者を収受もしくは蔵匿する行為,または隠避させる行為も処罰される(227条)。これらの罪はいずれも,未遂も処罰される。もっとも,身代金要求罪については未遂は処罰されない。
誘拐罪は原則として親告罪であるが,身代金目的の略取・誘拐,収受等の罪は親告罪でない。また,営利の目的であった場合も,(同時に猥褻の目的があっても)親告罪ではない。親告罪である場合も,被拐取者または被売者が犯人と婚姻したときは,その婚姻の無効または取消しの裁判が確定した後でなければ,告訴の効力はない(229条)。
執筆者:林 幹人
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