成年(満18年)に達しない者(民法4条)。未成年者は、心身の発育が十分でなく、判断能力(事理を弁識する能力)が十分ではない。そのため、民法上、未成年者は、契約その他の法律行為をする能力(行為能力)の制限を受ける者(制限行為能力者)であり、法定代理人(親権者。親権者のいないときは未成年後見人)がこれを保護している。すなわち、契約などの法律行為をする場合は、原則として、法定代理人や未成年後見人が未成年者にかわって行うか(同法824条・857条)、未成年者が自分で行う場合には法定代理人の同意を得なければならず、同意のない法律行為は取り消すことができる(同法5条)。
未成年者は、次の場合には、法定代理人の同意がなくても法律行為ができる。
(1)単に権利を得るだけの行為(無償で物をもらうなど)や義務を免れる行為(借金の返済免除など)(同法5条1項但書)。
(2)目的(参考書の購入など)を定めて処分を許された財産の処分や、目的を定めないで処分を許された財産(小遣いなど)の処分(同法5条3項)。
(3)許可された1種または数種の営業。その営業に関しては成年者と同一の行為能力を有する(同法6条1項)。ただし、その営業に堪えることができない事由があるときは、法定代理人は、その許可を取り消したり制限することができる。
(4)労働契約の締結。法定代理人は、未成年者にかわって労働契約を締結することはできない(労働基準法58条)。未成年者は独立して賃金を請求することができ、法定代理人が未成年者にかわって賃金を受け取ることはできない(同法59条)。
(5)満15歳に達した者は遺言をすることができる(民法961条)。
以上のほか、民事訴訟における訴訟行為については、未成年者は、原則として法定代理人によってのみ行うことができ、単独ですることはできない(民事訴訟法31条)。ただし、婚姻の無効・取消し、離婚、親子関係などの事件では、法定代理人の同意なしに訴訟行為をすることができる(人事訴訟法2条・13条)。
不法行為の損害賠償責任については、未成年者が責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったとき(判例では、12、3歳以下)は、未成年者自身はこれを負わない(民法712条)。この場合には、未成年者を監督する法定の義務を負う者(親権者・未成年後見人など)が、未成年者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負うことがある(同法714条)。
刑事事件については、原則として、14歳に満たない者の行為は罰せられない(刑法41条)。ただし、未成年者は、少年法の適用を受ける。選挙権については、満18年以上の者が有する(公職選挙法9条)。
なお、2022年(令和4)3月31日までは、満20年に満たない者は未成年とされていた(民法旧4条)。しかし、2007年(平成19)の「日本国憲法の改正手続に関する法律(通称、国民投票法)」(平成19年法律第51号)では、「日本国民で年齢満18年以上の者は、国民投票の投票権を有する」(同法3条)とされた。また、選挙権に関しては、2015年の「公職選挙法等の一部を改正する法律」(平成27年法律第43号)により、公職の選挙の選挙権を有する者の年齢について、満20年以上から満18年以上に改められた(公職選挙法9条)。こうした流れを踏まえ、市民生活に関する基本法である民法においても、18歳以上の者を成人として取り扱うのが適切ではないかとの議論がなされ、2018年6月に、民法の定める成年年齢を18歳に引き下げること等を内容とする「民法の一部を改正する法律」(平成30年法律第59号)が成立し(2022年4月1日施行)、18歳に満たない者が法律上の未成年と定められた。
[野澤正充 2022年4月19日]
日本民法では満20年未満の者が未成年者である(民法3条)。年齢の計算にあたっては出生の初日の24時間未満が1日に切り上げられるから(〈年齢計算ニ関スル法律〉1項),たとえば,1945年の4月1日中に生まれた者は65年の3月31日の午後12時をもって成年者となる。ドイツにおける成年宣告(Volljährigkeitserklärung)ないしフランスにおける親権・後見からの解放(émancipation)のような制度は日本民法上にはないが,婚姻すると成年に達したものとみなされることにはなっている(民法753条)。なお,少年法でも,満20年未満者は20年以上の者から区別されてとくに〈少年〉と呼ばれている。しかし,この法律の対象は非行少年(犯罪少年,触法少年,虞犯(ぐはん)少年--少年法3条1項)のみであり,しかも同法中には,非行少年に対して家庭裁判所が所要の保護処分を課しうること(24条)や,犯罪少年に対して刑事手続を進めるにあたってはあらかじめ家庭裁判所を経由すべきこと(20条)など,実質的に刑法・刑事訴訟法の特則をなす諸規定が置かれているだけである。したがって,同じ年齢基準が採られているとはいうものの,〈未成年者〉と〈少年〉との二つの概念が交錯して直接に関連することはないと言ってよい。
未成年者は,行為能力のない者(無能力者)として,親権者または後見人の保護下に置かれる。そして,親権者・後見人は,未成年者の身上につき監護・教育等の権利義務をもつほか(民法820条以下,857条),未成年者の財産に対する包括的な管理権をもち,この管理権に基づき,財産上の法律行為につき代理権と同意権とを行使する(824,859条,4条)。すなわち,出生直後の幼児などは,もっぱら親権者・後見人によって代理(法定代理)されるほかはないが,未成年者の成長に伴い徐々に,法定代理人が同意を与えて未成年者自身に行為させる機会も増加するはずである。そして,もし所要の同意なしに未成年者自身が財産上の法律行為を行うと,民法が規定する次の四つの例外の場合を除き,その法律行為は取り消すことのできるものとなってしまう(4条)。例外とは,(1)単に権利を取得するか義務を免れるだけの行為を行う場合(贈与の受諾など--4条1項但書)。(2)法定代理人が目的を定めて処分を許した財産(たとえば学資金)を,その目的の範囲内で処分する場合(5条前段)。(3)法定代理人が目的を定めずに処分を許した財産(小遣銭のたぐい)を処分する場合(同後段)。(4)営業を許された未成年者(未成年の芸妓がこれにあたるとした判例あり)が,その営業に関して行為する場合(6条。前掲例では芸妓修業のための衣類の購入が一例)。以上の四つが法定代理人の同意を要しない行為である。
ところで,未成年者を無能力者と定めて以上の措置を講じるのは,その未成熟のゆえに財産取引上で未成年者が不利益を受けないようにしようという,立法政策上の考慮に基づいている。したがって,民法財産法の原則を適用することによって,かえって未成年者に不利益を生じさせるおそれがある場合には,当該の原則は当然のことながら修正されることになる。労働基準法が未成年者の労働契約の締結につき,法定代理人の代理権を否定し(労働基準法58条1項),しかも,賃金の代理受領を禁じていること(59条)は,このような観点から正当である。また,家族法では,財産取引上での未成年者保護とは違う観点から,未成年者が養子をとることを禁ずる(民法792条)など,未成年者かどうかを問題とする場合も少なくない。
他方,未成年者が違法な加害行為によって他人に損害を生じさせた場合については,その未成年者に行為の責任を弁識するに足るだけの知能が備わっていたかどうかを,各個の事例ごとに判定すれば足りるから(712条。ただし,刑法41条は14歳未満の者を一律に刑事上の責任無能力者と定めている),未成年者であること自体に特別の法律上の意味が認められるわけではない。
→成年
執筆者:須永 醇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
… 子どもを意味する言葉には,大別して二つの系統があるとされているが,その一つは子孫を意味するもの,他は子どもの特色を形容するものである。たとえば英語のchildは前者の例であり,infantは後者の例とされている。日本の場合〈子〉には鳥や魚の卵の意が含まれていて,同時に〈小〉の意味でもあるから,この両面を併せ含む言葉として現在は機能していると考えられる。…
…日本では満20年をもって成年とされている(民法3条)。成年に達していない者を未成年者という。法律上,満20歳になることとは,満20歳の誕生日の開始を意味する(年齢計算ニ関スル法律)。…
※「未成年者」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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